これまでのいきさつ:

我が家にトコジラミがいる。

トトリはそう主張するが、物証がないので夫に信じてもらえない。

ついに吸血被害に遭うが、一般的なトコジラミの刺し跡と違うため、これも夫は信じていないようだった。

そんなトトリのことを、夫はどう見ていたかというとーー

*****

 

ある日を境に、妻がおかしくなった。

 

我が家にトコジラミがいると騒ぎ出し、家の物を片っ端から捨てはじめたのだ。

 

「トコジラミは物の間に潜むから! ミニマリストにならないと!」

 

口癖のようにそう言っては、あらゆる物を捨てていく。

 

 

使っていない物を捨てるのは、まだいい。

 

毎日使っている物を捨ててしまうとは、どういうことだ。

 

「トコジラミは家電にも潜むから!」

 

そう言って、妻はコーヒーメーカーも空気清浄機も捨ててしまった。

 

「コーヒーはドリッパーさえあれば手で淹れられるし、空気が清浄かどうかなんて、トコジラミがいるかいないかに比べたら些細なことよ」

 

そもそもトコジラミにとって、寝室から遠い場所にあるコーヒーメーカーに潜むメリットなんてあるだろうか。

 

そう言ってみたが、

 

「トコジラミはどこにでも潜むんだってば!」

 

と、妻は取り合わない。

 

 

妻は、カーテンも捨てた。

 

カーテンだけならまだしも、カーテンレールまで取り外して捨ててしまったのには驚いた。

 

まるで引っ越し直後のような窓辺に、唖然としてしまう。

 

 

本当にトコジラミがいると確証が取れているなら、この行動も納得できる。

 

しかし、本当にいるのだろうか。

 

我が家は、誰も刺されてはいない。

 

トコジラミの痕跡と言われる「血糞」とやらも見つかっていない。

 

なのに、どうしてトコジラミの存在をそんなに信じられるのだろう。

 

妻は虫を目撃したというが、それは「一瞬のことだった」と本人も言っているし、見間違いかもしれないのに。

 

別の虫かもしれないのに。

 

 

そうこうするうちに、妻は、トコジラミ捕獲装置を作りはじめた。

 

その装置での捕獲に失敗すると、今度は、

 

「こうなったら、わたし自身がおとりのエサになってトコジラミを捕まえる!」

 

と言い出した。

 

本人曰く、「シン・トコジラミ捕獲装置」だそうだ。

 

なんなんだそれは。

 

おとりのエサとなるべく座卓に横たわる妻の姿は、あまりにも異様で、奇妙で、正直少し怖かった。

 

(夫・談)

 

 

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