仕事仲間が会うたびに来年の引退を宣言してくる。
仕事仲間と言っても65歳になる職歴40年の大先輩のOさんだが。
世間一般のサラリーマンの世界では65歳は定年の年齢なのかもしれないが職人の世界に定年は無い。
実際65歳で引退する職人って、俺は聞いたことがない。
いいか悪いかは別として、今うちには最高齢76歳の職人もいるし、65歳なんてゾロゾロ居る。
まずここでOさんについて紹介する。
俺は仲間の中ではOさんと1番仲が良い。
よく喧嘩するけど、なんだかんだ気が合う部分もあるので、なんだかんだ仲が良く、他の職人には話さない色々なことも話す。
なので本文はこれからかなり穿った見方が出来る仕上がりになっていくけど、これは仲が良いからこそ出来る話。
まずOさんは真面目で粋なタイプではある。
人間としては信頼できる。
でも仕事に関しては気が小さく技量は低く頼れない。
俺の目から見える気の小ささを、本人は
俺は繊細なんだよ
と言ってたので、過去に俺は本人に思った事をそのままぶつけた事がある。
『悪いけどOさん、それは繊細さじゃないよ。それは単なる臆病で【責任】に対して逃げ続けてきた結果だよ。』
ああ平気で言うよ w
なぜって、仕事に対するスタンスが
責任を負うくらいなら手を出さない方がいい。
これだから。
こういう理屈で生きてきた人には年齢的に先輩だろうが関係なく言う事は言う。
こんな思考は許し難い。
仕事仲間の中では1番仲が良いけど、実際にOさんと仕事をするとおんぶに抱っこという感じで、とても職歴40年のベテランと仕事してるとは思えないくらいに手間がかかる。
いちいち指示を出して、その上で手取り足取りカバーしてやらないといけない。
実際に技能はうちの会社で下から1番か2番だね。
ぶっちゃけ、素人が三年間本気でやれば職歴40年のOさんの技量は超えると思う。
それくらいには酷い。
多分だけど、そもそもこの仕事に向いてないんだろうと思うし、今までよく食えてきたなと言う感じ。
彼の40年は一体何だったのかは知らんが、結局そういう生き方をしてると、こうなるという結果を体現してる。
現場を仕切ることも、施工の先陣を切ることも出来ない。
人手不足だからと、時々Oさんを中心としたフォーメーションで現場に送り出すこともあるけど、通常施工の1.5倍から3倍は時間がかかる。
逃げ続けてきた結果、技能が身に付かず職歴40年の何も出来ない人間が生まれたというわけ。
そんなだから基本的には隠れるところの仕事は任せられるけど、人の目に触れる仕上げ物を施工させる事は絶対に出来ない。
で散々disったけど、改めて仲はいいんだよね。
2日に1回は言い合いの喧嘩をしてるけど、なんだかんだ仲は良い。
Oさんの良い面を言うと、自立した行動はできない反面従順ではあるから指示さえすれば頑張る。
そう頑張る。
ただ。
本来それは求めてるものではないので、それがいくらできたとて100点にはならない。
60点て感じ。
これでは職人では無くて、ただの作業員だよね。
従順じゃ無くても自立して仕事をしてくれる人の方が、この世界では重宝するんだよ。
話を戻すと、このOさんが歳のせいか日々腰が痛いのでそろそろ引退したいと言い出した。
体もボロボロなので、65歳を契機に引退し、年金をもらいながら別の仕事をすると言い出したわけ。
そこで彼が選んだのが
介護職
らしい。
ワロタw w w
そこで色々聞くことにした。
『Oさん来年から介護職やるの?』
『ああ、俺もう体がボロボロだろ?だからこの仕事辞めて来年から介護職やろうかと思ってよ。』
『へー、手取りいくらくらいで考えてんの?』
『今みたいに35万だの40万だのもらえなくても、月に8万くらいもらえれば俺は良いんだよ。年金ももらえるしよ。』
何が 月に8万くらい貰えれば良い だよ。
そこで思った事をぶつけてみた。
『Oさんさ、まず色々と介護を舐めてるよなw』
『何がだよ?俺母親と親父の介護やってたからよ、他人の介護とか全然問題なくできるよ?』
したり顔のOさん
『んー、俺みたいな歳下の人間に言われて面白くないかもだけど、ぶっちゃけ介護を舐めてるよw』
『問題なくできるってばよ』(なぜかナルト風)
『疑問なんだけど、腰痛くてこの仕事辞めると宣ってる人が介護職できるのかとw』
真理を問いただす。
『だって親父とお袋の介護やってたんだから未経験ってわけでもないし、それくらいできるだろ?』
再びのしたり顔
『いやいや、クソ小便その他含めて、さらに40キロだ50キロだの人間持ち上げてベッドから車椅子に移したり、風呂に入れるために持ち上げたりするんだろ?それ理解してんの?』
『分かってるよ、やってたからな』
したり顔+得意げな顔のOさん。
『例えば自分の親なら運ぶ時に落としても ごめん の一言で済むけど、他人だとそう言うわけにはいかないのも分かってるって事ね。その時腰痛いからも理由にならんのもわかってるんだね。』
(少し嫌な言い方だがw)
『分かってるよ…』(考えてなかった反応)
『人間の風呂だの小便だのなんて毎日あるわけだから、毎日その作業の連続だよね!自分の親は1人しかいないけど介護してたら担当があるから、複数人のその作業があるわけだよね!』
『…んーまぁそうだな。』
(全く予想外の事が起きたような顔)
『まぁ気が変わったらこの仕事続けてよ』
Oさん沈黙ワロタw w w
ぶっちゃけOさんが辞めることによる経済的損失は少ない。
今ですら全ての現場に出せるわけじゃないから。
俺が気に食わないのは、Oさんはなんでも自分の都合のいい未来しかやって来ないと思い切る癖がある事だよ。
極論別に良いよ人様の人生だから。
俺が他人の人生に口出す事がそもそも烏滸がましいんだよね。
でもそれでも。
介護職の離職率も見ずに、腰が痛くない人たちがバンバン辞めてる世界wに、腰が痛いと日々連呼し、責任から逃れ続けてきた人が入っていこうとする様を見ていたら、何とも言えない気持ちになる。
今俺たちが扱う『無機物』とは違うんだよ。
道義的にも商業的にもこの世で最も価値のある
人間 という価値の塊をOさんに扱わせて良いものかと。
個人的には疑問しか出て来ない。