ボケたもん勝ち -3ページ目

父とビデオ・おまけ

父には〈本当に観たい番組だけ録画してね〉の他に、録画したら背面のラベルに何を録画したか記入するようにも伝えた。


今朝、父の机の上を掃除しようとしたらビデオテープがあったので、何気なく背面のラベルを見た。


父の震える字で、こう記されていた。


〈いまわのせいしろう〉


父よ、正しくは〈きよしろう〉だ。


キョーシローちゃんが観たかったのか…。


本当に観たかったのか…。


グッドチョイスだぜ、ベイビー!(父よ)

父とビデオ・後編

ビデオテープ屋敷へと化した家は、母も不満だったろうに文句も言わずに父の勝手にさせていた。


だが、母が亡くなり、父の面倒を私がみるようになったからには容赦しない。


きちんと整理され、分類されているなら価値もある。


だけど、何が何だかもう滅茶苦茶で、ケースにさえも入れていないテープはすでに大半がホコリとカビだらけ。



もはや父にとっても、萌えない、いや、燃えないゴミでしかない。


父に言った。


「この先、ビデオテープに埋もれて一人暮らしていくおつもりか?」


さすがに父もこの状況はマズいと思い始めていたので、テープの廃棄を了承した。


で、3年前の夏、会社の夏休みを全部使って私は実家に泊まり込んでビデオテープをダンボールに詰めた。



その数、なんと32箱分!


廃棄業者のトラックの荷台が、ダンボール箱でいっぱいになった。


引き取り料、なんとサービス価格でも10万円なり。


あの悪夢が再来しないように、引っ越しして来た父には「本当に観たい番組だけ録画してね」と言ってある。


が、当然その言葉を父は忘れる。



少しずつ、少しずつ父の部屋にテープが増えつつある。

父とビデオ

年を取ってからの父の趣味は、読書とパソコンとビデオ録画だった。


パソコンは実家に残してきたし、多分、父はもう使い方も覚えていない。


読書は、今では新聞を読むのがやっとという感じ。


で、残るビデオ録画は健在だ。


ただし、予約録画の仕方は忘れたらしく、番組が始まってから録画スイッチを入れるという方法。


このビデオ録画がなかなかのクセ者だ。

昔、実家へ遊びに行くと、4台あるビデオデッキのどれかがいつも稼動していた。


時には2台が同時稼動。


テレビっ子の父は〈これは!!〉と思った番組をどんどん録画するのだ。


で、録画したテープは完全放置。


番組タイトルさえも記入しておかないので、どのテープに何が録画されているかも判らない。


つまり、上書き録画してしまって良いテープがどれかも判らないので、次から次へと新しいテープを買って来ては使っていく。



当然、テープは溜まる。


リビング、父の部屋、寝室をいっぱいにしたテープは、やがて全室を占拠し、ついにはキッチンにまで侵入。


実家はビデオテープ屋敷へと変貌を遂げた。


(続く)