今回の内容は、ボールや動きに「キレを出したい」と思っている選手には非常に重要な内容だと思います。
トレーニングを指導していると、選手から「キレ」という言葉がよく出てきます。
野球のピッチャーであれば、ボールにもっとキレを出したい。
サッカー選手であれば、動きにもっとキレを出したい。
こんな感じです。
多くの選手が、キレを高めるためのトレーニングや練習をやっていると思います。
でも、そもそも「キレ」とはなんでしょうか?
選手から要望がある以上、そこを高めるための手段すなわちトレーニングを提示するのがトレーナーやフィジカルコーチの仕事ですが、でも「キレがあるという現象」を定義していなければ、キレを高めることなんてできません。
実際キレが欲しいという選手に、キレとは何かを問うと、大半は曖昧です。
ほとんどがスピードとごっちゃになっています。
ということはスピードが上がればキレが増すのか?
だったらキレという言葉は誰も使いません。
スピードとキレの間に何かしら違いを感じているから、わざわざキレという言葉を選んでいるのだと思います。
結論から言うと、キレとスピードは違います。
だからキレを出したい場合、まず理解しておく必要があるのが、キレとスピードは違うということ。
野球のピッチャーでいうと、150km/hでもキレがないボールもあるし、140km/hでもキレがあるボールもあります。
國學院大の神事努先生によると、キレとは、予測プログラムで対応できない、ギャップのあるボールのこととされています。
これぐらいのタイミングで来るだろうという予測よりも、早く手元に来るボールなんかがこれに当てはまります。
この定義によると、もちろん予測よりも遅いボールもキレがあるとされます。予測よりも遅く到達するチェンジアップやブレーキの効いたカーブなどのことです。
思っていたよりタイミングが早い・遅い。
思っていた軌道より高い・低い。
思っていた曲がり方よりも大きい・小さい。
もう曲がらないと思っていたらそこから曲がった。
つまり、キレは単独で存在するものではなく、必ず相手側の予測とセットです。
(フォームや回転数は、それを実現する手段です)
だから予測プログラムが弱い相手=初心者などには、キレという感覚は分かりにくいと思います。それこそスピードとキレが分類できないはず。
裏を返すと、相手の予測を裏切るための手法を習得していけば、キレがあると相手に感じさせることが可能です。
だからキレを手に入れたい選手は、相手の予測をどうやって超越するかにフォーカスを当てるとうまく行きます。
(もちろん、並行してスピードそのものを高め続ける努力が必要なことはいうまでもありませんよ)
相手の予測プログラムを裏切る。
このことは多くの対人競技で絶大な威力を発揮することが可能です。
サッカーやラグビーのキレだと、例えばターンの動きや加速の動きにキレがあると使われたりします。
イメージを統一するためにターンの動きを、反復横跳びのような動きとします。
このターンだと、ターンポイントまでに減速・地面に支点を作る・加速というフェーズで運動が構成されます。
このターンでキレを出す、すなわち相手に「キレがある」と感じさせるためには、この構成のどこかで相手選手の予測を裏切ればいいわけです。
減速がものすごく急激。
地面に支点を作るのが早い、加速のために地面を踏む時間が短い。
加速がものすごく急激。
またはそれらのつなぎ目の時間が非常に短い。
このどれか、または全てを満たすことができると、「あの選手はやたら動きにキレがある」という現象を起こすことができます。
もちろんこれらを筋力で実現しようと筋トレを行ってもいいでしょうし、ステップワークで解決しようとラダートレーニングをしても良いと思います。
僕はそれを実現するのに最も効率が良いと判断しているから身体操作を中心に指導しています。
身体操作の本質の一つは、「協力者を増やせること」だと僕は考えます。
つまり、減速であれば足の踏ん張りや筋肉によるブレーキだけでなく、上半身や腕の逆ベクトル発生作用を利用できるかどうか。
加速であっても同様の構図です。
これら協力者が多ければ多いほど、「思っていたより急激に」を無理なく起こすことが可能になります。
足だけで減速するまでに要する時間、動き。
これは相手の予測プログラム内に収まる可能性が高いです。
でもそこに腕や上半身の動きによる減速作用も追加されれば、当然予測よりも急激にブレーキがかかります。
ターンを構成する3つの運動全てで同じ構図の動きが可能になります。
同じ側に力のベクトルを発生させることができる協力者を増やす。
これが身体操作が重要な理由の一つです。
トレーニングによる学習作用によって協力者が減ってしまうことも十分にあり得ます。
僕らはこれをマイナスの学習と呼びます。
話が長くなるのでこれ以上ここは掘りませんが、ここをもっと勉強する必要があると感じた方はこちらを参照してみて下さい。
しかしながら、いずれにせよ身体操作トレーニングを含むどれもが単なる手段です。
僕は本質的にはどんな手段でもいいと思ってます。
手段を考える上で、リスクや無駄をどれだけ省けるか、そこで選択していけばいいだけの話です。
重要なことは、なんのためにトレーニングをやるのか。何を得るためにトレーニングをやるのか。
その目的と手段がちゃんと合致しているのか。
そこだけです。
上記のキレの構造はあくまで私見ですが、キレを得たいと思って(またはそれを依頼して)やっているトレーニングが本当に「キレがあるという現象」を紐解いている上での手段なのかはチェックしておく必要があります。
キレを得たいと思ってやっているトレーニングが、本当にキレがあるという現象に繋がっているのか。
そもそもキレという現象を定義できているのか。
キレという言葉は、実は非常に抽象的。
だから印象論でトレーニングもなんとなくやってしまいがちです。
お読みいただき、ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
追伸
どんなに鍛えても、どんなにハードに練習しても「動きにキレが出ない」と感じる選手。
チーム全体としてキレをもっと出していくためのトレーニングをやっていきたいと感じておられるコーチの方。
やり方次第では月に1回程度でも今までの積み上げが繋がるかもしれません。
ぜひ導入を検討してみてください。
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