トレーニングには、やればやるほど向上する部分と、数をこなしていく中でやっと気づけたり獲得できるものがあります。
例えば前者は柔軟性や筋力の一部の側面。
後者ならばコツを掴む、または自動化という表現をされる現象です。
コツを掴むのは、決して柔軟性が上がったから必ず、筋力がついたから必ずできるというわけではないシロモノ。
前者は万歩計のような積み重ね方。やればやるほど必ず得られるもの。
後者は自転車のような積み重ね方。ある日急にコツを掴む。やればやるほど必ずとはいかないけれど、やらなければ得られないもの。
両者は明らかに別々の現象です。
数をこなすことで手に入れられるもの。
数をこなすことで手に入れられる確率が高まるもの。
でもいずれにせよ、どちらも積み上げが必要最低条件。
「身体の使い方」というタイトルで、まるで数をこなさないで済むようなイメージを作ってしまっている風潮を感じるこの頃ですが、パフォーマンスを高めたり身体操作を獲得するのって、そんなに甘いものではない。
身体操作は、すべてのパフォーマンスの土台。
すべてのスキルの土台。
そしてすべてのトレーニングの土台。
ウエイトトレーニングだって、身体操作のレベルによって効果は変わってくる。
土台は、簡単には変わりません。
変えるためには積み上げしかない。
近道はない!なんて安易なことを言うつもりはありませんが、その近道もやっぱり数をこなすのが条件には入ってくる。
だから僕の考える近道は、「努力のロス」を可能な限り少なくするということ。
そして数を重ねることが目的化しないように注意すること。
自転車に乗るためのトレーニングならば、確実に全てが自転車に乗れるようになるファクターに集約されるように。
そして求められばその理由を全て論理的に整合性を持って説明できるのが指導側の最低条件だと思う。
ロスを最も少なくできるのが身体操作のトレーニングだと考えるから、僕はまずとにかく身体操作を教える。
身体操作をおろそかにしたままのあらゆるトレーニングは多くの場合「ロス」につながってきたから。
冒頭の話に身体操作を当てはめるならば、積み上げることで確実に変わるのは柔軟性。
積み上げる中で変わる可能性が高まるのが効率の良い力の伝達技術やハイスピードの中でのしなやかな動き。
これらは相互に影響しあっています。
柔軟性を高めるプロセスの中で力を抜くことを覚えたり、そのことによって力の向きや大きさを感じるセンサー(筋紡錘)の感度が高まったり。
力の伝達効率を高めるためには、力の向きや大きさを高精度で感じ取ることができる必要があるからです。
積み上げることで土台が変わって、その上に乗っかるものが変わる。
僕は多くのアスリートの絶え間ない積み上げからその重要性を学ばせてもらってきました。
土台を変えることなく、上に乗っかるものだけ変えようってのはあまりにも甘い。
土台を変えない変化は、、変わったように見えても、変わったように見えるだけ。
土台が脆弱であれば、上に乗っかるものをいくら立派にしてもやはりトータルとしての脆弱さは変わらない。
本当に「モノにする」ためには、土台ごと成長させるべし。
積み上げるしかない。
積み上げるプロセスの中で、「自転車に乗るコツ」を掴んでいくしかない。
繰り返しになりますが、トレーニングの効率の良さとは、積み重ね回数を減らすことではなく、努力のロスを減らすこと。
積み上げる、数を重ねる重要性なんてわかってる!
って思う選手もいると思いますが、「数をこなす意味・理由」を知った上でそうするのか、知らずにそうするのかの違いはとても大きい。
努力は選手の責任。
努力の方向性は指導側の責任。
お読みいただき、ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
追伸
方法ばかりがフォーカスされたり、方法ばかりを知りたい人が増えたりしている兆候はあんまりよろしくありません。
本来、トレーニングとは積み上げることで初めて意味が出てくるのが前提の鍛錬手段のはず。
方法を論理的に吟味することと、やってみてすぐに効果出るか否かを評価することは全くもって別次元のお話です。
どんなに良い練習方法だったって、それやって直後に自転車には乗れません。
もちろん大前提としてその練習方法が本当に自転車乗れることにつながっているのかを吟味するのは専門家が責任を持つべき部分。
アスリートの本当にすごいところは、ひたすら積み上げられることだし、積み上げる中で何かを掴んでいくこと。
トレーニングの本質はそこではなかろうか。
もちろん、効率を無視して積み上げることが目的化するのはナンセンスですが。
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