前回からの続きです。

これまでの記事は下記、お読みでない方は読んでみてください。
「インナーゲームとは」
「セルフ1、セルフ2とは」

 




 

前回は、指導によるセルフ1の活性化が起こり、それに起因してパフォーマンスダウンが起こるという例をお話ししました。

 




 

今回はそれを受けて我々トレーナーや指導の立場にある者が選手に対して具体的にどのように接することができれば上記のような状態に陥ることを防ぐことができるのかについてお話ししていきたいと思います。




 

 

まず最初に、指導の立場にある方に向けてなのですが、これから書いていく内容は、決してみなさんのこれまでのやり方を否定するものではありません。

指導者の方々の苦労や努力や悩みが本当に大変なものであることは推して知るべしですし、それはきっと選手にもどこかでは伝わっているはずだと思います。





 

今回、僕がお伝えしたいのは、もっともっと選手の可能性を引き出せるかもしれない、そのヒントとして見ていただければ幸いです。

 





 

まず第一の心がけとして、選手に「こう動かせ」「こう打て」などという動きを言語化した表現による指導は控えます。

僕の場合、主に使うのは「質問、問いかけ」です。

※「このトレーニングはこういう足の位置でやるんだよ」などの設定についての説明は必要なので、それは普段通りやってください。





 

ここでの問題は「動作を言語化して」伝えようとすることです。

指導の際は、言語化のところに問題が発生します。

※初心者が対象の場合は少し異なりますので、ここでは省き、次回に。



 

例えば、「やまをイメージせよ」と言われた際、どんな「やま」を思い浮かべますか?
 

富士山?(季節は?山梨側?静岡側?天候は?)

アルプス?

ヒマラヤ?

近所にある山?

登ったことある山?

漢字の「山」?

 

などなど、ほとんどイメージが他者同士で完全に一致することはないのです。





 

つまり指導者が「この動き』としてイメージしているものと、選手が「動きを言語として伝えらえれて自らイメージしているもの」はほぼ別物です。




 

これまでと同じくバッティングフォームで話を進めますが、バッティングにおける指導の本質は、形(フォーム)をつくるものではないはずです。





では本質は何なのか。





 

そもそも、バッティング能力とは。
 

①ボールとのタイミングを合わせる能力(変化に対応する能力)
 

②バットを介してボールに最も効率よく力を伝える能力
 

③ボールの芯をバットの芯に当てる確率を最大化する能力
 

これらの向上がバッティング能力向上の本質のはずです。






フォームはそれを実現するための「手段」であり、「結果」のはずなのです。






 

なのに、形(フォーム)だけを先に作りにいくから、選手は統合化できなくなって、「試合では使えない(打てない)綺麗なフォーム」が出来上がるわけです。

素振りは綺麗なのに、試合で打てないってやつです。

 

 


 

打てないにせよ、綺麗なフォームを完成させるためには選手は相当努力を強いられたはずです。




 

でも、打てない。




 

これではあまりに選手が気の毒です。





 

バッティングの指導とは、上記①~③の向上を選手に実現させてやるためのサポートだと考えています。



 

みなさんの指導はそこに直結しているでしょうか?

①~③を実現するために必要な要素をまず考え、その中で不足しているものを選手に補完しましょう。





 

話が本筋からずれましたので、戻します。

動きを言語化した指導に対して、インナーゲームでは「質問、問いかけ」を中心にすべきであると説かれています。

僕も普段からそうするようにしています。
ですので、トレーニングの時の肘の角度はこうだよ、などという表現は一切しません。
※ただし講習会で指導者(トレーナー)に対して指標を伝えるために表現することはあります。





どういうことなのか。

例えば、わかりやすいように少しやってみましょう。





今イスなどに座ってるお尻の感覚はどんな感じですか?
坐骨(お尻の骨)の感覚は?左右同じですか?




 

と聞かれたらどうですか?




 

お尻の感覚に意識をフォーカスしますよね?




 

これがお尻の認識力が高まる状態です。

つまり、人はこのような形で質問されると、意識を向けて認識を高めることができるのです。






 

その上で例えばそれを改善していくとすれば、導入は下記のような感じです。
左の坐骨の感覚が鈍い状態を想定した場合。
(骨盤が傾いてうまく左に荷重できていない※あくまで一例です)





 

先ほどの問いかけで左右の坐骨の違いを認識させてから、今度は「では左右が同じ感覚になるようにしてみてください」とやります。




 

対して、「あなたは骨盤が右に傾いているから、骨盤を左に傾けてみましょう」と言う表現。





それぞれ、言われた側の「身体への認識」が大きく異なるのがわかりますか?





 

前者は、荷重感覚(内的)。
後者は骨盤の傾き具合(外見)。





 

この二つはどちらも同じ状態、すなわち左右の坐骨の荷重均等化を目指した指導ですが、指導言語によって相手に引き起こす結果は大きく異なるという一例です。




 

言うまでもなく、スポーツの際には外見(フォーム)を気にして動く暇などありません。






 

さあ上記の二つの指導表現ではどちらが選手の試合での活躍に役立つでしょうか?
どちらがセルフ2を高めるでしょうか?




 

そして質問や問いかけは、何でもいいわけではありません。
選手のセルフ2を高めるためには、どのような質問をしてゆけばよいのでしょうか。






次回は、インナーゲーム4「何を質問するか」です。






JARTA
中野 崇