今朝、新聞に大相撲で最近話題の逸ノ城関の記事が掲載されていて、少し思うところがあったので書いてみたいと思います。


逸ノ城は、「いちのじょう」と読みます。

モンゴル出身です。

愛称は「モンスター」。




何がすごいかって、初めて入幕した先の9月場所(プロ野球の一軍みたいなもの)で、いきなり横綱一人と大関二人を破って、13勝2敗で白鵬と優勝争いしたのです。

そして何と次の11月場所ではいきなり関脇(上から三つ目の強さの階級)になってしまいました。






彼の強さの理由は、いくつも考えられますし、いろんな視点があると思います。

僕の場合、今朝の記事で彼の生い立ちについて書いてあったのを読んで何を思ったのかというと、最近の一般的なトレーニングと、彼が育ってきた環境によるパフォーマンスへの影響の違いです。






まず朝刊の記事を抜粋します。

-以下一部抜粋-


モンゴルに住む、逸ノ城の父アルタンホヤグさんは、馬40頭、牛30頭、羊400頭、ヤギ100頭と暮らしている。季節ごとに住む場所が変わる移動生活である。

「イチコ(逸ノ城の愛称)は働き者だった。この生活が息子を強くしたのだと思う。」

小学校に入学した8歳までは両親を手伝う日々だったという。

「馬や牛の世話は、幼い子にとって格闘のようなものです。」


乳を吸う子馬を母馬から引き離したり、体重が500キロ以上の牛を引っ張ったり。

森から丸太を運び、のこぎりで切ったり。


-抜粋終わり-






彼の父が言うように、幼いときから仕事を手伝うことで、確かに強い身体が自然に出来てきたと言えるでしょう。

そしてこれは逸ノ城だけに限ったことではありません。

例えば双葉山に代表される昔の力士たちも、形は違えど似たような環境下にあったことは十分予測がつくことですし、現在活躍しているモンゴル人力士たちも同様でしょう。




伝説の横綱、双葉山






今回何が言いたいのかというと、「仕事として」身体を使っていたことが彼らに高いパフォーマンスの根底部分、すなわち身体の使い方を習得させたのではないかということです。

決して「子どもの頃から身体を鍛えていた」ことそのものに対する話ではありません。

ここで子どもの頃という要素は話がややこしくなるので、一度除外して話を進めます。






身体を鍛える(鍛えられる)行為には、

①トレーニング(ここでは分かりやすくするためにウエイトトレーニングとする)

②仕事


大きく分けてこの二つがあります。

※①は、この場合、JARTAが提唱する統合化トレーニングではなく、一般的なトレーニングとしています。






二つの違いは何でしょうか?

一つ目の答えは「目的」です。

①は、身体を鍛える(筋肉を肥大させる)ことそのもの。

②は、物(逸ノ城の場合は馬や牛)を移動させるなど、行為を遂行すること。


どちらも結果としては筋肉が肥大して身体はたくましくなるでしょう。



しかし、問題はそのです。
身体を鍛えるという行為を通して習得する身体の使い方の質。
これが二つ目の答えです。

①や②を通して、人間はその身体の使い方まで学習して覚えていくのです。

つまり、①を通して身体の使い方を学習した人は、物をより重く負荷がかかるように扱おうとする、

なぜなら①は筋肉に負荷をかけることそのものが目的だから。
筋肉に負荷がかかっているという感覚を求めるという特徴があります。






対して、②を通して身体の使い方を学習した人は、物をより軽く簡単に扱おうとする傾向にあります。

なぜならそれは仕事だから。

「なるべく疲れないようにしたいという心理」
「なるべく効率よくやりたいという心理」


が働くからです。






考えてみて下さい。

10キロの重さがあるものを持ち上げるという課題に取り組む場合。

Aさん:より重くより大きい負荷がかかるように扱う人

Bさん:軽く扱えてしかも疲れないように扱える人、


どちらが身体の使い方が上手いと言えますか?

どちらが、パフォーマンスが高いと言えますか?


もちろん言うまでもなくBさんですね。






モンゴル人の力士が、このようなバックグラウンドのある身体の使い方を根本的に身につけて居るのに対して、日本の力士は、バックグラウンドは我々の子どもの頃と大きくは変わらない(「仕事」として身体を使ってきてはいない)ことが予測される上、トレーニングとしてボディービルダーの指導の下、ジムに通っていることが増えてきています。






日本人力士が勝てない理由はいろいろ言われていますが、こういった部分も理由としては深く関わっているかも知れませんね。

※もちろん、これは相撲だけでなく、日本のスポーツ界全てに通じる問題です。




ちなみに僕が関わっている力士が白鵬と当たった際、「分厚い柔らかいゴムにぶつかったみたいでした。力を全部吸収されてしまう感じでした。」と教えてくれました。








それを日本人力士にできるようになってもらいたいのですが…。

まだまだ差は大きなものかも知れませんね。。






最後に、誤解のないように気をつけていただきたいのですが、これは子どもの頃から労働しましょうという意味ではありません。

例えば筋トレをする場合でも、「目的」が重要ですよ、という意味です。

「筋トレなので目的は筋肉を付けることでしょ?」


いえいえ、自分の競技が上手くなることでしょ?

だって上手くなるために、トレーニングしてるんでしょ??






筋肉をつけることそのものを目的にトレーニングしていいのは、ボディビルダーだけです。




昨日の記事に少し誤解してる人がいるな~って思っていたら、朝刊にこういう記事が載っていたのでよいきっかけでした。
→昨日の記事|
かっこいい身体と使える身体の違い






JARTA

中野 崇