少し更新の間隔が空いてしまいました。

この間、福岡、金沢、北海道、と飛び回っていました。






今回は「伸びしろを伸ばす」ために必要なことについての記事の続きです。
ここまでの流れをお読みでない方は、先にこちらを読んでいただくとわかりやすいかと思います。
その1→「相手の力を封じる」
その2→「伸びしろを伸ばす」意味

その3→「上手くなるための絶対条件」






前回は、選手が楽しい、気持ちいいと感じることの重要性、そして指導する際の表現の方向性について触れました。

要するに選手自らが気付き、もっと上手くなりたい・自分にはその可能性があると感じ、指導者も選手がそうなっていけるような表現や選手が気付きを得られるような関わり方が必要というお話でした。






今回はさらに踏み込んで、では選手がもっと上手くなれると感じられるために必要な能力についてのお話です。

その鍵となるのは、「内的認識力」です。

内的認識力を高めると選手の可能性はグッと広がります。






内的認識力とは、自分の状態を認識する能力のことです。

自分の重心はどうなっているのか。

自分が今どこに力を入れているのか。

どの程度力を入れてどの程度力を抜くべきなのか。

そしてもちろん、その時の自分の精神状態を認識するという能力も含みます。

つまりパフォーマンスを構成する要素のうち、メンタル面もここに含まれます。

※パフォーマンスを構成する要素としては、これに加えて外的認識力というものも存在します。そのあたりはまた別の機会に。



イタリア挑戦中の西澤選手。大学選手権優勝経験を持っています。
成人してからでも、内的認識力は向上させることが可能です。





その局面における自分の状態を認識する力。

これは一流選手は必ず高いレベルで保有しています。

よく、調子が悪いときにも試合中に自分で修正する能力が高い、という表現がありますが、これも内的認識力が前提となっています。

自分の状態が繊細に感じられていなければ的確に修正しようがないですよね。






そして内的認識力が高い選手は、今やったプレイをフィードバックし、フィードフォワードする能力が高いのです。

つまり、さっきのプレイは、「ここをこうしたらもっと上手くできるはずだ」、「もう少しこうすればもっと良くなる」という具合です。

そしてそれに合わせてプレイを修正したり、そこを改善するトレーニングや練習に望むことが出来たりします。



イタリア挑戦中の星子選手(GK)。このような肩甲骨の状態を獲得する際にも当然内的認識力は重要です。




ここまで言うともうお分かりかと思いますが、前回出てきたイチロー選手や武豊選手などは、この内的認識力が非常に高いと言えるのです。

彼らは、決して「結果が良かったからOKだ」ということはしません。

結果の善し悪しにとらわれず、「さっきのプレイはもっと上手くやれることができたはずだ」という観点で振り返っています。

これが内的認識力を高いレベルで持つ者の思考回路であり、伸びしろを伸ばしていくために必要な態度です。






内的認識力についてお話すると、重力や遠心力感知などまだまだ話は続くのですが、キリがないので詳しくは講習会やトレーニングの場で尋ねてみて下さい。






では、この内的認識力を高めるためには何をどうすればいいのか。

そのあたりは前回も簡単に触れましたが、指導者がまずはとにかく選手に問いかけることが必要です。

「今のプレーの感覚はどうだったか」

「気持ちよく動けたか」

「無駄な力みはなかったか」

「もっと気持ちよく動くにはどうしたらいいか」

などです。


多くの選手は聞かれて初めて自分の感覚に意識を向けます。






ただし他者から問いかけられてもそれを感じるためのセンサーそのものの感度が悪いと当然うまく捉えることができません。

問いかけられたときにより精密にその感覚を認識するためには、身体がゆるんでいることが必要です。

非常に簡単に一部を説明すると、例えば筋肉の中には「筋紡錘(きんぼうすい)」というセンサーがあって、筋肉がどれぐらい伸びているのか、どれぐらい収縮しているのかを感知しています。

このセンサーが高いレベルで働くためには、筋肉に無駄な力が入っていないことが条件です。

つまり、普段0のレベルから5になったときに感知するレベルと、普段4から5になった場合、どちらがより高いレベルで感知しやすいかということです。





そういう意味から、「絶対上手くなりたい」というスポーツ選手には、ぜひ日頃から「最小限の力で動く」つまり無駄な力を絶対に入れない、という難しい課題に挑戦していただきたいです。


そして日常の動作においても、「今の動きは無駄な力が入っていなかったか」という観点で身体の使い方を常に認識する作業を繰り返していただきたいです。


日頃よりお世話になっている中西哲生さん。
中西さんもこのあたりは非常に重視されている方です。
元選手とは思えないほど深く理解されています。




ここまで何回かに分けてお話してきた内容は、概して「筋力をつければ必ずパフォーマンスが上がるということではない」という理由についても述べたつもりです。
そしてスポーツ選手がそのパフォーマンスを高めていくために、高め続けるために必要なことについても述べました。






我々スポーツ選手のパフォーマンスに関わる立場にある者は、選手の「努力の方向性」を決める立場にあります。

選手はとんでもない努力をします。

その際の方向性が、もし間違っていたら、選手にはとんでもないロスを強いることになるだけでなく、場合によってはケガに向かって努力させてしまっている可能性だってあるのです。






「努力は選手の責任、努力の方向性は指導者(トレーナー)の責任」






この言葉をぜひ覚えておいて下さい。






次回は、「かっこいい身体」「使える身体」についてお話しようかと思います。






JARTA
中野 崇