道具には、それぞれ能力があります。
能力があるということは、
その能力をどれほど発揮できるかどうかは、扱う人に委ねられるということです。





また日本には、多くの外国文化からは理解できない独特の文化があります。例えば道具に神が宿ったり、道具に人格を与えるような扱いをすることで、道具を非常に大切にするというものです。
(とてもややこしくなるので、ここでは触れません)





スポーツに関わる道具だけでなく、日頃から関わっている道具の能力、最大限に発揮させてあげられていますか?





今回のテーマは、

「スポーツパフォーマンスにおける道具との関わり方」

についてです。






これは私たちトレーナーにとっても

身体の使い方の質を高めることにつながります。






スポーツを含めて、日常生活において私たちが使用する道具はたくさんあります。






例えば包丁、ペン、歯ブラシ、スプーン、箸など。

スポーツだと、野球のボール・バット、サッカーやラグビーのボール、

バドミントンのラケット、ゴルフのクラブなどでしょうか。






みなさんはこれらの道具を扱うとき、何を意識しますか?

また選手には道具に関して、何を意識させていますか?

「扱い方」だけ教えていますか?


阪神タイガース、西田直斗選手のバット|JARTAサポート|2014自主トレにて




実は何も意識せずにただ道具を使い過ごすのは、

とてももったいないことなんです。






なぜならこれらの道具は、そのときの自分の身体の状態を知る、感じるための一つの指標になるからです。

そのための方法はとても簡単です。






それは「道具の重み」が感じられるように扱うことです。






上記に挙げた道具たちは、

重量的には非常に軽いものばかりです。

それゆえ、一般的には重量を感じながら扱うことはほとんどありません。

(軽い道具ゆえに腕の力だけで操作できてしまうという特徴があります。)






しかし、物体ですから、必ず重量があります。






身体の使い方を上達させるためには、

その微々たる重さを、「重み」として

感じることが重要なんです。






重みを感じるためには、

身体は適度に脱力している必要があります。






指先は当然として、手首や上肢、肩、体幹など全てを出来る限り脱力します。






そうすると、筋紡錘の感度が高まります。

その結果として普通の人(状態)には感じられないような重みを感じることが可能になります。







逆に緊張して道具を扱うとどうなるでしょうか。






指先や腕、肩や首などが力んで緊張した状態です。

当然、知らぬ間に道具を強く握ってしまいがちです。

(筋紡錘の感度は低下します)






想像、または実際に試してみて下さい。

このような状態で道具の重みが感じられるでしょうか。






結果は明白ですね。






では、なぜ道具の「重み」を感じる必要があるのか。

それは、重みを感じようとする意識が「身体をゆるませる作用」があるからです。






身体をゆるませると、先ほど述べたように筋紡錘の感度が高まります。

加えて、姿勢制御能力が高まるのです。






重心線が崩れた状態(力学的ロスがある状態、感じられていない状態)で、よい作業ができるでしょうか?

自分の身体の状態に鈍感な状態で、高いパフォーマンスが実現できるでしょうか?

しかもこの乱れは、そのままケガの根本要因になり得ます。






ちなみに道具からの視点でみると、道具の重みを感じられるような身体の使い方は、





「その道具のポテンシャルを最大限高める」





使い方とも言えます。





非常に繊細なレベルの話ですが、例えば包丁ならば刃と食物の関係性が感じられるようになります。

そうすると最も包丁の刃の切れ味が機能する程度の力を加えられるようになるのです。





すなわち無理な力を加える事なく、スムーズに切る事ができるようになります。

道具(包丁)を主体とした操作の方法。これを「他者中心運動構造」といいます。

剣聖・宮本武蔵も「五輪の書」の中で同じことを説いています。







包丁を使わない方のためにもう一例。








歯ブラシです。

歯ブラシの重みを感じながら歯磨きをするとどうなるか。

一つは歯の形状を、ブラシを通して感じられるようになります。
ブラシの先に感覚器が存在していないのにも関わらず、です。

繊細なコントロールにつながります。


もう一つは、
ブラシの弾力を活かす事ができるようになります。

そうすると、毛先によって歯間の汚れを掻き出す機能が使えるようになるわけです。






「道具の重みを感じる」






これは選手にとって本当に良い鍛錬になります。

道具の重みを使いこなせるようになるということは、とても心地よいものです。





そしてこれは当然ですが、スポーツにおける道具、バットや各種ボールなどを扱うパフォーマンスにもつながります。








JARTA
中野 崇