前回からの続きです。
これまでは投球動作に非常に強い緊張が見られて阻害因子となっている場合の一つの考え方、関わり方についてお話ししました。
投げ方云々よりも以前に、まず自分の状態に気付けるか、認識できるかの観点からアプローチを開始しました。(内的認識力)
その際はボールを持たずにとにかく内的認識力が働くような流れを作りました。
そこに改善は見られたものの、ボールを持つとたちまち余分な緊張が入るという状態。
このことから、「ボールを持って身体を動かす」ことそのものが身体中に緊張を起こすスイッチになっていることが明らかになりました。
そのような状態にある選手に対して、次にどんなことをしたのかが今回の内容です。
まず、ボールを出来るだけ軽く持たせて、「ゆらす、軽く振る」ということをさせました。
つまりボールの重みを感じさせることから始めたのです。
ボールを初めとして、スポーツではラケットなど道具を扱ってパフォーマンスを発揮することを求められることが大変多いです。
その時に、まず上手く扱う「前提」として肝腎なことは、
・「道具の重みを感じる」ということ。
・道具を扱う身体がゆるんでいるということ、の2点です。
※道具の重みを感じることについての詳細は、以前JARTAのコラムに記載しましたが、FaceBook上のものでした。今からはかなり見つけづらいため、次回に改めてまたご紹介します。
この2点は強い相互関係にあります。
つまり重みを繊細に感じるためには、余分な緊張を排除して出来る限りゆるむことが必要。
そして身体がゆるんでいると、道具の重みはとても感じやすくなるということです。
なぜ身体がゆるむと重みを感じやすくなるのでしょうか。
これは筋肉の中にある「筋紡錘」という器官が主に関係しています。(他にも圧受容器なども関係しています)
筋紡錘は筋肉の張力(伸び縮み)を感知するセンサーの働きをしています。
すなわち、道具の質量によって、それを操作したときに加わる筋肉の張力を繊細に認識できることで道具の重みを感じることにつながるのです。
話を現場に戻しますと、結果としてはその時点では上手くいきませんでした。
やはりこれまでの「ボールを握って力む」という設定の方が強力でした。
実際の流れの詳細はここまでしか明かせませんが、通常このような時にどんな手段があるのかを考えていきましょう。
次の手段としては、より軽い道具を持ってもらうことが多いです(ボールペンなど)。
このとき、頭の中では、より重いものも選択肢にあります。どちらも試すつもりでいることが多いです。反応をみながら、というスタンスです。
ボールペンなどは、普通では重みを感じることなく使われている道具です。
重みを感じるということは、すなわち道具の重心を捉えることに近い感覚です(本当はもう少し奥が深いですが)。
ボールペンの重みを感じようとさせることで、より身体のゆるみを向上させます。
さらに、「ボールを扱う」という階層から、「道具を扱う」という階層へと抽象度を高め、ボール関連の設定を外すきっかけづくりをします。
実際にはもう少しいろいろやりましたが、
結果、初めにやったときよりも断然ボールの重みを捉えられるようになり(主観)、重みを感じながら投げるようにすることで、少なくともテイクバック時の緊張は激減することができました(客観)。
そしていかに日常生活から自分の身体をゆるんでいることに認識を向けるか、道具の扱いに気をつけるかの重要性を説明しました。
このような、日常生活全てを鍛錬と捉える心構えを「行住坐臥」といいます。
その場に居合わせた他の選手やトレーナーたちにも、このことの重要性を説明し、日常生活がいかに統合化トレーニングにつながるかを理解してもらえました(たぶん笑)。
今回の変化は、あくまで「きっかけ」に過ぎません。
もちろん京都大学のトレーナーを含めて、選手に関わる我々の対応は非常に重要になりますが、やはり選手自身の「行住坐臥」が鍵を握ることは間違いありません。
みなさんはボールペンを扱うとき、歯ブラシを扱うとき、そしてボールを扱うときに道具の重みを感じていますか?
JARTA
中野 崇

