今回はトレーナーの方向けの内容です。
自分のやってきた競技のトレーナーをやりたいと考えておられる方にはぜひ読んでおいていただきたい内容です。


トレーナーをされている方は、競技レベルに関わらず、「自分が競技者としてやってきた競技」を専門としている方が多いです。
トレーナーを希望されている方も、おそらく自分が経験してきた競技のトレーナーをやりたいと思われる方が多いのではないでしょうか。


感情的にはとてもわかりますし、自分がやってきた競技の選手に貢献したいと思うのは当たり前ですよね。
そして自分が経験者だからこそ、その競技のトレーナーはより力を発揮できるのは当然と。

しかし、そこにはもしかしたら落とし穴があるかもしれません。






「自分がやってきた競技のトレーナーをするのは注意が必要」


僕はそう考えています。





先日あるレスリングの選手のトレーニングを行いました。

現在大学生で、かなりの有望選手です。


知人を通じてオファーをいただき、トレーニング開始に至りました。





お会いした時に感覚派だということを感じたので、いろいろ難しいことは言わずにとにかくまず実感として得られるように、いろいろと体験してもらいました。

例えばどんなことを体験してもらったかというと、

「筋力で勝てない相手に、勝つ方法」です。

(正確には、彼が筋力で勝る側だったので、負ける側を体験していただきました。「筋力で勝っている相手に負ける感覚」です)





ゆるむこと(身体状態感知能力)、重心感知能力、重力(落下運動)の活用、RSSC(回旋系伸張反射)の活用などもレスリングに置き換えながら説明しました。

僕はレスリングはもちろん未経験ですが、そもそも僕がやれることは、選手がハイパフォーマンスを実現できるための「前提となる身体の状態」を作ること。

競技そのもののスキルなどに口を出す立場にはありません。






ですので、普段から選手の競技の部分(フォーム指導など)には相談された場合以外は、ほとんど口を出しません。

そもそもフォームは様々な要因(1次姿勢や身体意識など)の総合結果ですので、フォームはそれらの結果としてより良いものになっていくのがいいと思っています。






どんな競技でも、人間がやる以上はハイパフォーマンスの前提は共通する部分があります。

それゆえに僕は様々な競技の選手たちを担当することが出来ています。

サッカー、野球、レスリング、相撲、バレエ、ビーチバレー、ビーチサッカー、フットサル、サーフィン、スキー、スノーボード、格闘技、バレーボールなどです。

プロや日本代表、セリエAなど、どの競技もみなさんそれなりのレベルです。

しかしその競技をやったことがある、やったことがないというのは僕が基本的に担当しているフェーズでは影響がないです。

「ハイパフォーマンスを実現するための前提条件」を揃える段階なので。






逆に言うと、自分が実際に競技者としてやってきたものには注意が必要なのです。

例えば僕は競技者として野球をやってきたのですが、野球選手のコンディショニングやトレーニングのときにはかなり注意しています。






つまり選手の訴えが、「自分が野球をやってきた」という経験や感覚に重なってしまうことで、大きなバイアスがかかった状態となってしまうのです。

よほど気をつけていないと、「投げているときにこうなんです」みたいな訴えを、知らず知らずのうちに自分が投げる時の感覚に置き換えてしまっていることになっている可能性があるのです。






また、それぞれの競技の現場で慣例的に使われている独特の表現があるのですが、それについても「経験者」である場合は同様に注意が必要です。

例えば野球のバッターであれば、「ボールに入っていけない」などです。

未経験の競技であれば純粋に言葉の意味と動きを考えますが、なまじ自分がやってきた競技だと「知っている言葉、使ってきた言葉」として認識してしまいます。ところが相手が例えばプロ野球選手であった場合、素人の「ボールに入っていけない」とプロの使う同じ言葉では、その言葉に含まれる情報量も質も全く別ものであったりします。





「知っている言葉」でも、相手がどのような認識で使っているのかは、必ず深く検証する必要があります。






そういう意味では、「自分が経験してきた競技だから得意、専門」と思うのは、ある意味リスクかも知れませんね。

むしろ「最も苦手な競技」と心がけておくべきなのかもしれません。

(選手心理の理解など、メリットも当然ありますので、これはあくまで一側面です)





ちなみにこのレスリング選手は今はアゼルバイジャンで世界大会を戦っています。

ご活躍、期待しています。




写真は立甲という武術的な肩甲骨の使い方の習得前後です。
これが出来ることで、腕の前方肢位でも0ポジションをキープ出来るなど、多様なメリットがあります。
レスリング選手にも、全身の連動性から腕に力を伝えるための前提として非常に重要です。
詳しくは、
JARTAのホームページから。

ピッチャーやゴールキーパーやバレーボール、テニスなどの選手は必須です。





JARTA
中野 崇