【トレーナーは、選手にかかる重圧を知っておくべき】
こんにちは。
昨日、東京にて前INAC神戸の石原氏とゆっくりお話をする機会を得ました。
また、フランスで活躍していた元フェンシング選手も同席され、アスリート視点のお話をたくさん伺いました。
選手のセカンドキャリアとパフォーマンスの現実的な関連、東京オリンピック開催までのプランなどなど非常に有意義な時間でした。
JARTAでも来月には認定トレーナーが誕生するので、オリンピックを目指す選手に関わる活動を計画しています。
※認定トレーナー資格取得後の活動については、たくさん計画がありますので、また日を改めて掲載したいと思います。
昨日の話の内容については、ここで書ける話と書けない話が当然あるわけですが、書ける中で特にこの時期にご紹介したいお話があります。
それは、「プレッシャー」についてです。
なぜこの時期なのかは、もちろんオリンピックという重圧に関係するからです。
石原氏に限らず、幸いにも私はなでしこジャパンの選手たちや成田童夢など、たくさんのオリンピック経験者と話す機会があります。
その中で一様に語られるのが、プレッシャー、そして精神面についてなのです。
またオリンピック以外にも、ワールドカップなど国際舞台で日本の代表として戦う際にはやはりその部分について語られることが多いです。
メディアで解説者や評論家が語っている一般論に近いものや、公の場で選手がインタビューで語っている内容と実際に選手達が語ってくれる内容は、やはり少し違います。
私たちスポーツ選手に関わる仕事では、その選手がどんな競技レベルであってもプレッシャーについてはよく知っておく必要があります。
オリンピックやワールドカップ、世界大会など、日本代表として競技に臨む際、とてつもない重圧がかかると言われています。
それは誰しもが口にすることですし、誰しもが想像に難くない事実だと思います。
しかし、実際、その重圧とはどのようなものであり、選手にどのような作用を及ぼすのでしょうか。
国際舞台で顕著に現れる例としては、「使命感」です。
特に大会前からメディアなどで注目され、世間から大きな期待を寄せられる選手には本当に顕著に現れます。
今回のソチオリンピックでは、期待されながらも4位という形で報道されている女子スキージャンプの高梨沙羅選手などがその代表例でしょうか。
※ここでの本題はメディアや世間の問題点についてではないので、そのあたりは割愛します。
例えば高梨沙羅選手はどのような心理状態になっていたのでしょうか。
直接彼女と関わる機会はないので、石原氏の話から推察してみましょう。
初めに石原氏が例に出してくれた選手が、サッカーワールドカップに日本が初出場を決めた際に決勝ゴールを決めた野人・岡野選手の例です。
石原氏は私と会う前日にこの話をご本人から直接聞いたそうです。
岡野選手の決勝ゴールシーン「ジョホールバルの歓喜|1998年」
アジア枠第三代表を決める、一発勝負の試合でした。
6:00ぐらいからが見所です。
「あの試合にかかっていた期待感、そして重圧は想像もつかないぐらい過酷なものだった。」
「”勝ちたい”から、いつしか”勝たなければならない”に変わっていた。変わらざるをえなかった。」
岡野選手はこう語ったそうです。
あまりに期待感や重圧が強すぎると、「使命感」が「~したい」を超越してしまうのだそうです。
岡野選手は、今でもあの試合を思い出すと震えるそうです。
震えの理由は、「恐怖」だそうです。
出来れば出たくなかったとも語っていたそうです。
期待や重圧は、代表に選ばれるほどの精鋭選手をそこまで追い込むのです。
高梨選手も、試合後のコメントから察するに、同じような状態に陥ってしまっていたのかも知れません。
先の岡野選手の話のようなリアルな心理状態は、なかなかメディアで語られることはないので、本当にどんな精神状態になっていたかは定かではありませんが…。
最後に石原氏は、こうも加えました。
重要な試合では、「選手のために笑顔を見せたくても、本当に笑えなくなってしまう」ほどの重圧があると。
ここでは、期待や重圧を選手やチームにかけることが悪だという論調ではありません。
適度な期待や重圧は選手のモチベーションや集中力にもつながります。
ともかくこういった事実があるということをお伝えしたかったのです。
ちなみに余談ですが、ワールドカップの審判は試合の一ヶ月前ぐらいから音信不通になるそうです。
脅迫などが非常に多いから、らしいです…。
巷には、「プレッシャーの乗り越え方」など、精神面の対処方法やテクニックがたくさんあります。
もちろんそれらの知識はとても重要であり、その方法論は選手達を救うかも知れません。
ただやはり、まずは選手がその場面でどう感じているのか、それを我々が理解しておいてあげることが大前提であり肝心なのだと思います。
(そしてもちろん精神状態が動きにおよぼす影響も捉えることの重要性は語るまでもありません。)
そして重要なことは、プレッシャーは代表レベルだけにのしかかるわけではなく、どんな競技レベルの選手にあってもそれぞれの選手の背景により、何らかの重圧がかかっています。
解決策も重要ですが、まずは、「共感し、寄り添うこと」を大切にしたいと思います。
ソチオリンピックは明日で終焉ですが、トレーナーの皆さんは選手の動きだけでなく、プレッシャーという側面からも選手を見てみて下さいね。