☆☆☆映画「新章 パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり」2022年8月23日 | パレ・ガルニエの怪爺のブログ

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東急Bunkamura ル・シネマ

(火曜サービス・デイということで、¥1,200)

 

ウィークエンダーさんのブログで紹介されていて、是非、観なければと思い、早速、出かけてきました。

パリ・オペラ座バレエ団の無観客上演などの期間を通じて、ダンサーにとって、観客がいかに大事かということが、多くのダンサーたちの生の言葉で語られ、それが、オペラ・バスティーユ劇場での「ラ・バヤデール」の無観客上演の違和感と同じ劇場での「ロミオとジュリエット」の有観客上演の盛況との対比などで、説得力をもって裏付けられ、「バレエ観客」というプロフェッション(?)に誇りをもって、高みを目指そう(コール・ド・バレエを含むダンサー達の表現を、微妙な表現をも含めて、すべてを味わい尽くし、それをその場でダンサー達に伝えられる観客になろう!)というような気持ちにさせられる映画です。

 

以下、断片的な感想を。

・邦題、「特別なシーズンの始まり」の「始まり」というのはおかしいと思います。原題を直訳すると「(とても)特別なシーズン」(実際にカッコが付されています。)ということで、特に「始まり」という意味合いの言葉はなく、内容としても、コロナ禍で、劇場での練習さえできず、また、公演が再開された後も、無観客上演を強いられたりしたこれまでのシーズンのことを指すのであって、「始まり」ではないと思いました。

 

・結局、無観客上演になってしまった「ラ・バヤデール」では、三組のエトワールがニキヤ、ソロルの主役を割り当てられていたのですが、ドレス・リハーサル(ゲネプロ)で、ソロル役のステファン・ビュリオンがニキヤ役をサポートしながら踊っているとき、観客席のオーレリ・デュポン芸術監督が、「彼の視線が美しい」などと言うのですね。

 芸術監督は、ポール・ド・ブラや脚の動きだけでなく、首の角度、さらには視線の様子まで観ているんだ…「プロフェッショナル・バレエ観客」としても、ダンサーの視線まで鑑賞しなければならないんだなと、思いました。

 その伏線として、アマンディーヌ・アルビソンが蛇のソロの練習をするときに、指導者が「あなたの視線が感じられない」と注意する場面があったのですね。

 でも、ステファン・ビュリオンについての「彼の視線が美しい」の場面は、特別に視線の向け方で表現しているという程のことはなく、サポートしていれば、当然の視線の向け方だったと思いますので、単に、「ステファン・ビュリオンはハンサムだ」と言っていただけではないかと考え直しています。

 

・「ラ・バヤデール」の陰の王国の場面での24人のコール・ド・バレエによる坂道でのアラベスク・パンシェの反復:ヌレエフ版は、ダンサーに同じ軸足で、同じ脚を上げるのを、只管、反復させるので、大変なのですね。右脚を軸足にするダンサーはずっと右脚、その後ろのダンサーは、ずっと左脚が軸足、その後ろは、またずっと右脚…。

 「ヨガの気分」と言っているダンサーが出てきましたが、「苦行僧の気分」というのが本音かも。

 ちなみに、マリインスキー・バレエ版は、常に観客席側の脚を上げるアラベスクなので、坂道の踊り場で方向転換するときに、軸足を変えられます。

 

・私は、擦り切れるほど観たマニュエル・ルグリ、モニーク・ルディエールの「ロミオとジュリエット」のDVDで、マキューシオを鮮やかな技巧で踊っているリオネル・ドラノエには、一方的な親近感を抱いているのですが、映画の中で、指導者の一人として出てきます。

 ポール・マルクが「ラ・バヤデール」の無観客上演でゴールデン・アイドルを踊って、上演後にエトワールに任命されるのですが、上演前に、リオネル・ドラノエがポール・マルクに「脚をもっと高く上げろ、ぴったり90度だ。三角定規で測る。」などと声をかけるシーンがあります。

 エトワール任命プロセスに彼がどの程度関与したのかは不明ですが、おそらく、オーレリ・デュポン芸術監督の言動などから、ポール・マルクのエトワール任命の動きを察知していて、無観客上演という異常な状況で踊らなければならないポール・マルクが、無事、エトワールに任命されるように、さりげなく集中すべき要点を助言したのだと思うのですね。

 

・映画である以上、クロースアップは仕方ないと思いますが(私の本音としては、踊りの最中の表情などのクロースアップは不要)、画面から踊っている手足の先がはみ出すような場面が多々ありました。

 その方が、ダイナミックに感じられるという感覚なのでしょうが、踊りを撮るときは、常に全身を映し出してほしいと思いました。

 また、踊りの練習を映しているときに、時間の経過を表現するために、ガルニエ・オペラ座から見たパリの夕暮れの景色に変えたりするのも、映画なので、表現上、仕方ないかと思いますが、正直にいえばやめてほしいと思いました。

 

・1本の映画で、かつ、火曜サービス・デイの¥1,200で、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ステファン・ビュリオン、ジェルマン・ルーヴェ、(原産地日本の唯一のエトワール)ユーゴ・マルシャン、ドロテ・ジルベール、アマンディーヌ・アルビソンらのエトワールを垣間見られるのは、バレエ・ファンとしては、絶対お得です。