入寮面接 | 天坊の舞録

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二百十六の煩悩

3月末なのに雪がまだ残っていた。

私は入寮面接を受けに、東京から盛岡へ。少し不安を抱えながら、寮へと向かった。

着ていったのは、入学式用に初めて買ったスリーピースのスーツ。(山形屋でイージーオーダー。色は濃紺)

駅からタクシーで10分程走ると、敷地にコンクリート剥き出しの汚い建物が二つ連なっているのが見える。奥にあるのが北謳寮で、手前が紅梅寮(女子寮)である。


タクシーから降りた私は、建物を見上げて思った。「汚ね~。」

すると、入口の屋根の上に不審な人が座って、タバコをくわえながらコチラを見ている。しかも、昔の学生運動時代の格好で。黄色いヘルメットには「造反有理」とマジックで書かれ、ゲバ棒、マスク用のタオルまで。

(おいおい、大丈夫かよ、ここ?)

寮の第一印象は、変な先輩にからまれたらどうしよう、だった。


埃臭い玄関に入り、ブザーを押すと寮の役員の先輩が2階にある面接室まで案内してくれた。


正面に座っていた寮長の前に座るよう促され、荷物を置いて座ると、面接が始まった。

寮長は小柄で、いかにも人の良さそうな顔をしていた。


「君が○○君?」

「ハイ。」

「君、日本語話せる?」

「?」

私のような在日の学生を受け入れるのは、寮始まって以来で、寮長の方が緊張していた。

「読み書きも大丈夫です。」

ここで、「ワタシニホンゴスコシハナセマス」と、ギャグを飛ばそうか一瞬迷ったが、第一印象を悪くすると、4年間地獄を見そうだったので、素直に答えた。(後にこの事を先輩に話したら、ギャグを飛ばした方が鮮烈にデビュー出来たのに、といわれたが・・・。)


すると、タイミングを見計らったかのように、窓から先ほどのヘルメット男が面接室に入ってきた。


丸い銀縁のメガネをかけた丸顔の男だ。来ているのは綿入りチャンチャンコ(後に岩手弁で「ドンブグ」ということを教わった)を着ていた。

彼は私に真顔で近寄り、おもむろに

「君、タバコある?」

「キャビンマイルドなら」

「一本頂戴。」

私は上着の内ポケットに入ったキャビンマイルドを、箱毎勢いよく差し出した。

すると、偶然一本のタバコがスルッと3cmほど飛び出した。

「やるね!」と彼はニヤリと笑う。

「ありがとうございます。」と答える。


彼は寮長に顔を向けると「彼、合格!」

「?」

「あ、はい。」と寮長はホッとしたような顔を見せる。

彼は続けて「こいつは永村と白川の部屋ね!」

面接室にいた他の役員の先輩達から笑い声が聞こえた。

「あっ、言い忘れたけど俺、鵜飼。宜しく!」と言って手を差し出した。意味不明な握手を固くした後、鵜飼さんは部屋から出て行った。

実質的な入寮面接を私は受けていない。日本語を話せるかどうかを聞かれただけだ。

少し戸惑っていると、「寮内放送~、寮内放送~。南39室の白川君。新入寮生を迎えに来てください。」と先ほどの鵜沼飼さんの声がスピーカーから聞こえてきた。


「永村さんと白川さんはイイ先輩だから、安心していいよ。」と寮長。

「一年間は酒とタバコの心配はいらねーぞ!」

「服汚れるから、早く着替えた方が良いぞ」

「宴会は7時からだぞ~!

「結構飲めそうだな。」

「鵜飼さんの前でも堂々としていたもんな。大物だ!」

等と入寮したばかりの私には意味不明な言葉を背中で聞きながら、迎えにきてくれた3年生の白石さんの後について、一年間お世話になる南39室に向かった。