パワー素子でも同じことが
同じことはすぐにもう1回起こる。炭化ケイ素(SiC)である。モータを回すインバータに使う半導体として、今はSi(ケイ素)を使っている。これが近い将来、SiCになる可能性が高い。何しろ損失がSiの半分しかない。これもタイミングを誤ると、切り替えに失敗する。
SiCが実用化する時期はいつか。多くのメーカーは何度聞いても「2010年代」としか答えない。幅が10年もあるアバウトさだ。気持ちは分かる。SiCは昔から開発の展開が分かりにくい技術で、既に読みを外しているメーカーが多い。以前の発言通りならば、とっくに実用化している頃なのである。
同じく「2010年代」に期待されているのが自動車の本格的な電動化だ。ガソリンハイブリッド車の市場は「2018年に962万台」「2020年に1200万台」など様々な読みがある。これも原油価格、電池の開発状況など、揺れる要素が多い。「本格的に立ち上がるのはいつか」と問われれば、「2010年代」と答えるしかない。
だが、それでは答えにならない。問題は「2010年代のうちどこなのか」である。自動車の本格的な電動化が始まる時期には、SiCインバータを使いたい。2つの時期がうまく合わないと、困ったことになる。
SiCの開発が間に合わなければ、とりあえずSiを使うしかない。自動車用インバータは家電、情報家電に比べて巨大である。モータの出力はハイブリッド車で10~165kWある。1台に使う量がエアコンの10倍、100倍という数字になる。普及が本格化すれば、大量の半導体が必要になる。
だからと言って自動車のためだけに、Siパワー半導体の生産設備に大きな投資をするメーカーはないだろう。すぐにSiCが追ってきて、余剰設備になることが分かっているからだ。結果として「SiCは間に合わない、Siは品不足で高値」という、自動車メーカーにとって最悪の事態になる可能性がある。ハイブリッド車、電気自動車の時代までには、まだいくつも越えなくてはならない山がある。
