見て下さい、このだだっ広い芝生。
左奥に夫婦さんのテント。
右奥の遥か向こうにも、夫婦さんのテント。
それと、ソロテント。
そして、駐車場近くに私たちのテント。
と、合計4張りとなりました。
(週末ですよ?)
桜もちょうど咲いてて最高。
夜桜の鑑賞も出来て。
そんな、非の打ち所がない最高の無料キャンプ場に出会ってしまったと、はじめは思って大喜びしてました。
その後、このキャンプ場が私を一晩中苦しめるとは知らずに…
この日、まだお風呂に入れていなかったため、
テントを張ってから、
地図ですぐ近くにあるとされる国民宿舎へ行く事にしました。
入浴のみが可能か電話をかけてみましたが、呼び出し音は鳴るものの、つながりませんでした。
暗くなってきたので、とりあえず行ってみる事にしました。
来た道と逆方向でしたが、両側から木々が迫る山道はすぐに細く荒れてゆき、気がつくと国民宿舎を通り越していました。
何度かUターンしてその辺りを探すのですが、国民宿舎に入る道、というものがどうやら存在しませんでした。
スマホで色々検索してみたところ、どうやら既に廃業しているようでした。
それにしても、建物へ続く道すら無いってどういうこと?
ミステリー?
この辺りから私の脳内には怪しげな暗雲が立ち込めはじめたのです。
仕方がないので、海沿いへ降りて足摺温泉に行こうとしましたが、
片道30分もかかるし、キャンプ場に戻る頃には遅い時間になりそう。
子供達をなだめて、この日は入浴を諦める事にしました。
何の収穫もないまま暗くなったキャンプ場へ舞い戻り、焚き火や夕飯の支度に取り掛かりました。
ここのキャンプ場は、テントサイトの隣に炊事場と駐車場があり、そこを抜けた茂みの奥にトイレがあります。
ですから、トイレに行くたびに、駐車場と炊事場の横を通る事になります。
何度かトイレや駐車場に行くたびに、
炊事場から得体の知れない「臭い」が漂っている事に気がつきました。
少し気になっていましたが、炊事場にはあまり用事が無いので奥まで覗き込みに行く事もなく過ごしていました。
夜、食事が終わったあとに、
私は洗い物を持って、この日初めての炊事場へ一人で行くことになりました。
手前の柱にあった電灯のスイッチを押すと、炊事棟全体がパァっと明るくなりました。
ここのキャンプ場で唯一点灯するのは、この炊事場と、茂みの向こうのトイレだけで、
だだっ広い芝生や駐車場に灯りは1つもありません。
何事もなくザブザブ洗いながら、ふと奥に目をやったあと…
ギョッとなりました。
それは、洗い場の奥に、ポップアップ式の小さなテントが立っていたからです。
え?人がそこにいたの?
全く気がつかなかった。
お遍路さんかな?
と最初は思ったのですが…
テント横の水道に鍋が重ねてあったり、折りたたみ椅子が置いてあったりしました。
まさかホームレス??
ちょっと待ってよ、でも、何で真っ暗なの?
時間はまだ8時くらいだったと思います。
人の気配もしなかったし、ランタンなど灯りが灯っている気配もありませんでした。
私達のテントは駐車場の近くに立てたので、炊事場がすぐ近くに見えます。
この時間まで何の気配も無く、
そして何より気になるのは、
この、ただならぬ、生臭い臭い。
洗い物が終わったあと、
意を決してテントの側まで行き、外から様子を伺う事にしました。
真っ暗の中、人の気配も無くシーンとそこに立っているテント。
今日さっき立てたばかりの雰囲気でもなく、少なくても数日はそこにあったであろう佇まい。
鍋や椅子といった生活感。
そして、なんとも言い難い悪臭。
このキャンプ場は、周辺に民家や店などなく、
歩いてどこかへ夜にお散歩に行ける場所でもないです。
先程、地図にはあるけれど、道が無い国民宿舎を探して暗い山道を往復した心細い経験が、
私をおかしな思考にさせていきました。
このテントの中で、
人が死んでるんじゃないの?
誰も気がつかないまま、
中にご遺体があるのに違いない。
私の妄想はもう完全なるマイナス思考というか、
思考回路が現実から遠く離れて、サスペンス劇場の世界に入ってしまいました。
よく考えてみて?
夫婦さん2組のテントは焚き火もしてるし気配もあるし、駐車場で会ったときに挨拶もしたけれど、
ソロテントの人は全く見かけてないのよ。
暗くなってから一度もテントにランタンが灯っていないし。
これは絶対何かのサスペンス。
炊事場の死体と、人の居ないソロテント。
何かあったに違いないのです。
夜中じゅう、私の頭はサスペンス劇場の中。
夢には、パトカーがやってきたり、
夫婦さんキャンパーと事態に慌てたり、
ソロテントの人の謎や、ホームレスの自殺など、
もうてんやわんやの大劇場が繰り広げられていて、
全く熟睡出来ませんでした。
夜中の2時に目が覚めて、1人恐怖に慄いたりもしてました。
そして、朝を迎えました。
小鳥達のさえずりに包まれる朝。
ここはヨーロッパの森の中なの?
鳥ってこんなに色んな鳴き声があるのね。
スズメのチュンチュンじゃなくてね。
お上品なソプラノの歌声です。
美しい。
その鳴き声に応えるように、
誰かが口笛を吹いてます。
朝なので、怖くない!と思ってトイレに立ち、
恐る恐る炊事場の横を通りがかりました。
一晩中悩みつづけた、サスペンス炊事場。
…に、背の高いおじさんが立っていて、
「おはようございまーーす!」
と、あちらから元気に挨拶してきました。
お、おじさん!
生きてる!!
良かった!!!
私のあの夜の妄想が現実でなかった事に、心から安堵したのです。
と同時に、なぜかおじさんに憎しみが募ります。
私をあんなに心配させて!
炊事場にテントなんか張って陣取るとか、どういうつもり?
考えだしたら止まりません。
おじさん、憎き!
一晩中私に心配かけたおじさんと、その後はもう目も合わせませんでした。
そして、気配の無かったソロテントー!
普通に朝出てきて、フライシート干してるー!
無事で良かったー
皆んな無事で良かったよーー
始まってもいないサスペンス劇場は、こうして無事に幕を下ろしたのでした。
非日常では思考回路が突拍子も無い方向へ狂う事があるものです。
今回は母子キャンプという事で、必要以上に警戒心が強くなっていた表れではないかと自分では解釈しています。
このキャンプ場にはサスペンスの要素はゼロで、
終始気持ちの良い、最高のキャンプ場であったようです。
その事実に気がつくのが、帰る2時間前だったのが、今回の残念ポイントです!
鳥が舞う桜が美しいです。
夫婦さんのテントを隠し撮り!
桜と最高!
朝ごはんは前日に買った冷凍のチュロスをカリカリに焼きました。
シナモンシュガーをかけて。
キャンプ場には牧場もあって、
朝になると馬さんが放たれました。
可愛い馬さーん♡
良いキャンプ場でほんとに良かったよー!
サスペンス炊事場の生臭さ。
その原因が最後にわかりました。
キャンプの片付けで駐車場と炊事場のそばを
うろうろしていたとき。
サスペンス炊事場のおじさんと、犬のお散歩に来ていた地元のおっちゃんとの会話が聞こえてきて、
今日は魚があるとか無いとか言っていました。
そう、ここは海に囲まれた町、土佐清水市ですから。
炊事場で生魚でも捌いて食されていたと思われます。
ふ…フツー!
Day3に続きます。