そして一昨日、再入院。
 翌日には開腹手術である。
 子供たちには、『お母さんは腹を切って、悪いものを取り出してくる。したがってまたしばらく入院するのだ』とだけ説明しました。
 さすがに、前回の入院時に慣れたのか、子供らは大して動じてませんでした。
 妻も腹をくくったのか、落ち着きがありました。
 そして、手術当日の昨日。

 朝の7時30分には子供らは全員学校に行ってしまった。午後1時からはじまる手術には血縁者ひとりが必ず立会をせよとのことで、1時間前に病院に行くことになっていた。洗濯、掃除をすませた。
 ふと、思いついて先祖に妻を守ってもらおうと車で10分ほどのところにあるお寺に墓参りに行くことにする。この寺には小生に優しく接してくれた祖母が眠っている。亡き祖母と小生はちょっと不思議なつながりがあった。祖母が病に伏せって余命わずかというとき、そして天に召されるときに小生は呼ばれたのだ。これははっきりと自覚があり、祖母がこの世を去ることがある日突然、虫の知らせのように脳裏を横切った。『とにかく今日、会いに行かなければ、、、』と祖母の元に向かって車をひた走らせ、祖母のことを想い涙してハンドルを握っていた。
 そして、小生が祖母のもとに到着した瞬間にあの世に旅立っていったのだった。
 親族からは『あんたは呼ばれたのだ』と言われ続けました。
 小生は、あの祖母に守られている。この実感は今現在でもあります。

 近所の花屋で仏花を買い求め、お寺へ。
 祖母の墓前に願い事をした記憶はないが、今度ばかりはお願いをした。
 妻を護ってくれと。

 寺をあとにし、その足で病院へ。
 妻は案外と落ち着いていて、動揺は見せない。
 何を言うかといえば、
『お腹がへった。お昼ごはんが抜きなんて聞いてなかった。次になにか食べることができるのは、明日の流動食だって』なんて呑気に言う。
 アホっと思いながら、妻の代わりに近所のラーメン屋で『もやしぞば600円也』を食ったら美味かったと自慢をする。
 お前もラーメンを食べたかったら、元気になって病院から帰ってこいと。

 手術着に着替えて、明るくふるまってくれる妻。
https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/6d/0c/bmwbikes36/folder/1295736/img_1295736_62944699_0?1340168887
 頭にかぶるネットで顔を隠しておどける。

 これが最後の写真になったりして、と本気とも嘘とも言えない言葉が口をつく小生。

 そのうち看護婦さんがやってきて、ストレッチャーに乗せられて手術室へ運ばれていきました。
 手術室の前で
『じゃあな』とだけ声をかけるとガラス扉の向こうの世界につれていかれました。
 閉まっている扉に
『死ぬなよ』とハッキリと心なかで呟く。
https://blogs.yahoo.co.jp/IMG/ybi/1/6d/0c/bmwbikes36/folder/1295736/img_1295736_62944699_1?1340168911


 いや~待っている時間の長いこと。
 小便に3回も行きました。
 待合室に、イラっとくる行動をとる子連れの夫婦がいたので、違う意味で気がまぎれました。妻の心配よりもその親子にイライラしている時間のほうが多かったかな。

 予定の1時間30分しても呼ばれず。
 手術は長引いているのか。
 2時間が経過。時間がかかるということは、悪性だったのか。
 妻は何を夢見て、麻酔で眠らされているのだろう、、、、。


 2時間と10分ほどして待合室に声がかかる。
 『終わりました。執刀医があちらでご説明させていただきます』と。
 先ほどの手術室と書いたガラス扉のむこうに、あの女医さんがいた。
 薄緑の手術のための服を着ていて、まるでテレビでみる手術医のようだった。
 『終わりました』
 『思ったよりも大きく腫れいて、予想とおりに癒着していました。腸やまわりの内臓にくっついて、それをはがすのに時間がかかりました。これが、切除した卵巣です。』
 小生の目の前には、直径15センチほどの丸いガラスケースに入れられた内臓組織がある。
 小生には、それほど醜悪なものには見えない。
 嫌悪感などはまったく感じない。
 たまに買ってくる鶏レバーにすこし似ているかな?

 恐る恐る小生は口を開く。
 『悪性の可能性はいかがでしょうか』
 すると女医は、
 『見ていただいてもわかると思いますがきれいですよね。もちろんこれから組織を検査に回しますが、腫瘍の中身の様子からしても、良性だと思われます』

 おお神よ、あの世のばーちゃんよ。ありがとう。
 
 小生、ここで、担当女医さんに思い切った行動の質問をする。
 『この卵巣。記念というか、妻に見せるために写真を撮影していいですか』と、
 『どうぞ』とあっさり承諾してくれた女医。

 実は小生、これで絶対に妻は癌ではないと確信したのだった。
 女医がまだ癌の疑いをもっていれば、切除した卵巣の写真撮影なんぞ許可するはずがないと考えたのだった。

 手術室の入口で麻酔の覚める妻を待つこと30分ほど。
 酸素マスクをした妻がストレッチャーの上に。
 『ごくろうさん』と声をかけると、うなづいたような、、、、。
 『大丈夫、悪いことは終わった。もう全部終わったそうだ』と腫瘍の悪性を否定されたことを伝えるとすこしうなづく。
 集中治療室ではなく、そのまま病棟のベットに戻された。
 しばらく待って病室のベッドに行くと、苦痛に顔をゆがめているが安堵しているような表情も見せる妻。
 何かを言おうとしているので、顔を近づける。
 「ありがとう」とか「愛してる」とか感動的につぶやくのかな思っていたら


 『オシッコが、、、したい』
 と。

 アホ、お前のアソコにはションベン垂らしてもいいように、管が突っ込んであんだよっ。
 この『おしっこがしたい』で、目が覚めました。
 病気モードから突然、小生は元気が出ました。

 小生が妻のそばにいても何の足しにならず邪魔になるだけで、介護もできない小生がいてもしょうがないんじゃないかと、あとは看護婦さんにお任せしてサッサと病院をあとにしました。
 
 これからもう少し妻にも家族にもやさしくできそうな気がする、初夏を感じる夕方でございました。