鋼アニメは初回全部と最終回途中(リザさんが「ロイ・マスタング!!」と叫ぶところまで)しか見ておらず、当然のことながら映画はまったくの未見である人間が、余所様の萌えと叫びとその結晶(=二次創作)のみを糧とし谷村●司氏の歌に妄想ネタをもらって無理やり書き上げた、「ロイの旅立ち~残されし者」な一品です。
従ってその内容はいつも以上に矛盾で穴だらけかもしれませんが、一ヲタクの戯言と思って広い心で受け止めていただければ・・・・・・。
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ぱちん、ぱちんと鞄の留め金を掛ける音が、片付いて物の少なくなった室内に反響する。
「忘れ物は、ありませんか」
荷物を用意したのは自分だし何度も確認もしたのだが、最後にはいつも、ロイにそう聞いてしてしまう。彼の副官になってからずっと、変わらないリザの癖だ。
その問に、ロイはリザが見慣れない古びた重いコートを羽織りながら黙って首を振った。
ロイが釦を掛け終わるのを待って、今度は封筒を差し出す。
「汽車の切符です」
なくさないでくださいねという言葉まで、遠ざかった日々のままだ。
あの頃と異なるのは、ここが司令部ではなく二人がこの一年ほど寝食を共にした部屋であること。格好も、ロイは伍長の地位に相応しい質素な旅装で、リザに至っては軍服でさえない。
日が落ちて薄暗い部屋の中は、もともと据え付けられていた家具以外は全てきれいに片付けられ、人が住んでいた痕跡は、床に詰まれた僅かなダンボールにしか窺えない。その他人行儀な様相に、感傷よりも戸惑いが先にたち、そのことにリザはむしろ安堵を覚えた。
ロイがたった一人、遠く北方へ赴任するという事実を、旅立ちの今日この日になっても、リザはどこか遠くの、まるで夢の世界の話のように捉えていた。がらんどうの部屋を見て戸惑うのもその証拠なのだと。
だからリザは、行きましょうかと微笑むことが出来た。それが逃避にしか過ぎないことは、頭の片隅に取れない染みのようにこびりついてはいたけれど。
鞄を取り上げたロイに、リザは「あ」と声を上げた。訝しげなロイに近づくと、襟元に手を伸ばす。
「襟、また立ってます」
分厚い毛のついたコートの襟を、手馴れた動作で直してやる。
「あなたは片襟が立ちっぱなしのことがよくあるんです。・・・ご自分で気をつけてくださいね」
これからは、と言いかけて飲み込んで、代わりに、そのまま出ては少しみっともないですよと、からかうように続けた。
ぽんぽんと胸元を叩いてやりながら、リザはつい笑い声を漏らした。なんだか、母親が子を送り出すおままごとのようだ。
けれどロイが低く「あぁ」と呟いた言葉が鼓膜を震わせて、それはそのままリザを揺さぶるのだった。
冬のよく晴れた夜は、刺すような冷たい空気が肌に痛い。
この時期、それよりも更に寒い北方へ向かう人々は想像以上に多く、プラットフォームの中でもとりわけ三等車両が到着する予定のこの近辺は、人や物で溢れかえっていた。
そのせいで、リザは人酔いしてしまった。なんだかめまいがして、足元がふわふわと覚束ない。
やがて汽車が到着して、続々と人が乗り込んでいった。三等車両の席は指定ではないから、早く行かなければあぶれて立ち通しになってしまうかもしれない。ここ中央から北部のターミナル駅まではほぼ一日掛かる汽車だから、三等の固い座面でも立つよりははるかにマシだろうに、ロイは動かず、リザも何も言わず、二人は吹きさらしのプラットフォームの隅に佇んでいた。
喧騒が、どこか遠くに聞こえる。
ふとリザは空を見上げた。近くに街灯があるせいで星はまばらにしか見えず、それらはなんだか作り物めいて見える。
これが北方ならばとリザは思った。
北方では、冬空は始終雪雲に覆われていると聞くが、たまの晴れた夜にはどんな星空が見えるのだろうか。ロイが赴任する地は、北部のターミナルで別の汽車に乗り換えてさらに半日、馬車で半日かかってようやく到着する北部国境地帯だから、中央にいては想像もつかないような、それは素晴らしい光景なのだろう。
そして、目深に被っていた帽子を少し持ち上げて、隣で同じように天を仰ぐロイを見やった。
不意にリザの心に、風が吹き込んできた。身体を芯から凍てつかせるような北の風だ。その中に一人佇んで、ロイは今や一つきりになった黒の瞳でどんな空を見つめるのだろうか。
けれど彼が見つめる空を、リザは知ることが出来ない。その隣に、自分はいないのだから。居場所などないのだから。
リザは今ようやく、自分が立っている場所をはっきりと知覚した。
ここは中央の駅で、ロイはこの汽車に乗って北方へ行く。たった一人で、リザをこの場に残して。
これまでずっと傍らに居続け、同じものを見て、共に走ってきたというのに。
彼はこの先、残った右の眼で何を見るのだろう。そして何を思うのだろう。
なぜ、私の居場所がない。なぜ、私に同じものを見せてくれない。なぜ・・・・・・なぜ、私を置いていくのですか・・・・・・。
それでも結局、そんな言葉はどれ一つ言えはしないのだ。言うことをロイは望んでいないことをリザはわかっていたし、彼が望まないことを出来るはずもない。
いっそ、気づかないふりをすれば。
もしも本当に気づかなければ。
泣いて喚いて、その腕に、身体に縋りつくことが出来たかもしれない。
けれどもしリザがそのようなことをする人間であれば、そもそもここにはいられなかっただろうことを思えば、詮無い想像に過ぎない。
だからリザは、笑んだ。それしか出来なかった。
「そろそろ、乗っておいたほうが良いかもしれませんよ」
タイミングよく、汽笛が甲高い音で鳴った。それを合図に、ロイよりも先に鞄に手を掛けて持ち上げた。
あぁ、なんて重いんだろう。
支度をしていたときにはこれほど重くは感じなかったものを、いったい私は何を詰めたのかしらと思いながら、リザはのろのろとした動作でそれを差し出した。
受け取るロイと手が触れ合ったが、手袋越しの接触は少しも温もりを伝えてはくれなかった。
「家に残っていた荷物で、必要そうなものは後ほどお送りします」
やはり、その昔のごとく、慣れた物言いでしか言葉は出てこない。
「他に何か入り用なものがあったら、いつでもおっしゃってください」
その中で唯一、リザが口にすることの出来た本心の欠片だった。本当に欲しいのは、ロイからの連絡ただそれだけだ。
ロイは無言のまま帽子を被りなおした。
きっと、連絡は来ない。
もう一度汽笛が鳴る。まもなく汽車が中央を出発する合図だ。
「いってらっしゃいませ」
昔よりも少し小さくなったように思う着膨れた背中に、リザはそっと呟いた。
ロイは最後にほんの少しだけ振り向くと小さく頷くと、それきり一度も振り返らないまま汽車の中に姿を消した。
その乗車口を、リザは微笑を湛えたままみつめ続けた。冷たい北風が時折吹きつけても微動だにしないで立ち尽くしながら。甲高い汽笛が長く二度鳴って、ゆっくりと汽車が動き出しても、窓に彼の姿を探そうとはせず、ただじっと一点だけを見据える。
汽車は少しずつ、速度を上げながら遠ざかっていく。
その最後尾がプラットフォームを抜け出したとき、微笑むリザの眼からぽろりと涙が一粒、こぼれた。それからは堰を切ったように、後から後から涙が溢れ出て、ついにリザはその場にしゃがみこんでわぁわぁと声を上げて泣いた。
ホームに残っていた僅かな見送りの人々が何事かとリザを見たが、恥も外聞もなく、ただひたすらにリザは泣き続けた。
行かないで行かないで行かないで。どうか私を置いていかないで。
口に出来なかった言葉は涙となって零れ落ちていく。
どれだけ声を張り上げても、もう届かない。
・・・アメブロって、追記のような形で隠すことって出来ないんだろうか。
できるよやり方知ってるよーという方おられましたら、どうぞご教授くださいませ。
というわけで、アニメ最終回後、映画の前の、ロイアイお別れの場面でしたー。
12/21の妄想小ネタを形にしてみたのですが、うーん、なんかもうちょっと淡々と情景描写のみでいこうと思っていたのが、気がついたらリザさんがどっぷりヲトメだ・・・・・・。
つーか増田のやろう、「あぁ」しかしゃべってねぇし!お前、もうちょっと他に言うことあんだろーー!!
と怒ってみたところでどうしようもなし。
せめて帰ってきた増田にリザさんはドロップキックの一つでもキメてやればいいと思います。
私は地味に、輪ゴムでぴちぴちと。