そろそろ寝ようかとしていた時,
携帯が鳴った.


「樹里~.」

確実に泣いてる優衣の声.


「どうしたの?!
ヒゲちゃんといるんじゃないの??」



「今,帰ってるところ...
もう,なんかつらくて,居れなくなって.」


「迎えに行くよ??
どこにいるの??」


「大丈夫.
祐介が迎えに来るから・・・」


「そっか.
優衣,ホント大丈夫なんだね?」


「うん.とりあえず,
明日朝会って?
樹里も,幸人君との話,ちゃんとしなよ!!」


「わかった...
明日,朝一行くからね.」


そういって,電話を切った.

ちょうど歯磨きから戻ってきた幸人が
不安そうに


「友達のとこ,
いってあげなよ?」


そう言ってくれた.
その友達思いの幸人の事がやっぱり
好きだと思った.



「ううん.大丈夫だって.
優衣だったの.
ヒゲちゃんのとこから,
帰る途中で.
でも,彼氏が迎えに来るから大丈夫みたい.」


「優衣ちゃんありえなくない?
樹里ちゃんの友達だから言うの悪いけどさ.
俺だったら絶対許せない.
だって浮気相手の家まで彼氏に迎えこらせるなんて.
しかも相手アイツだろ??」


「うん.でもね,
私は友達だから止めないよ?
止めれないよ.
優衣もどうしようもないんだよ.
浮気してるのは優衣だけど,
苦しんでるのも,優衣だからさ.」


「そっか.
でも,わかんないな.
アイツよりいい男絶対いるのにな.」


幸人の考えは本当に正しいと思う.
けど,きっと祐介君を好きだからこその,
どうしようもない気持ち.

苦しんでいるからこそ,
今一番同じ気持ちでいる
友達だからこそ,
本当にそばにいてあげたいと思った.


「大丈夫だよ.
私は幸人以外いないから.」



そう言うと,幸人が照れくさそうに笑った.

そして結局
この日も,突然遊びに来たケントさんたちと
朝まで遊んでいた.

かかっていた,東田トモヒロのLife Musicの
声を聞きながらこんな毎日が続いていくのかなって
タバコの煙の行く先を眺めていた.

今ならわかる.
幸人の気持ち.
仕事を大事にしていた人が
それをなくしそうなときに,
恋愛なんて,考えられる余裕ないって事も.
そしてそれが幸人のプライドを傷つけた事も.


そう,余裕がなかったのは
私のほうだった.
信じて待つ勇気がなかったのは
私だった.


深呼吸して,
ドアを開けた.

「お帰り.」


その笑顔に
それだけで胸が一杯になる.


帰り道に前に進むために口ずさんだ
星にお願いと一緒に決めたセリフなんて全部忘れてた.


いつもみたいに音楽を聴きながらゆっくりしてた
幸人に,

「ねえ,幸人.」


「うん?」


「私ね,
一緒に居てみて,
幸人の事,本当に好きだって思ったの.」


「ありがとう.」


「今は,仕事もつらい時期じゃない?
だから,私,きちんと支えてあげたい.
中途半端な関係じゃなくって.」



沈黙が,苦しかった.
幸人の横顔さえ見るのが怖かった.


「樹里ちゃんの気持ち,嬉しいよ.
俺も,これから,ずっと一緒に居れたらって思ってる.
その気持ちに嘘はないよ?
俺も,ちゃんと考えて話しようとは思ってる.
だけどね,今こんな状況じゃ,返事できないよ.
仕事どうなるかわかんないのに,
樹里ちゃんをつなぐことはできない.」


「そっか.考えてくれてるなら良かった.」

「でもね,俺,不安だよ?
今日留美ちゃんの家行ったら
あの状況でしょ?
何であいつまでいるのって思ったし.」

「ごめん.
でも,私の気持ちは幸人にしかないよ?
それは会ったときから変らない.
今日のも,色々あって.
だから,信じて?」

「わかった.」


「気持ち,急かしてごめんね.でも,言いたかったんだ.」


「ありがとう.」


「ご飯,温めてくるね.」



そういって,キッチンで
泣いた.


何が悲しいのかわからなかった.
ただ,不安に思われてたこと.

暖房の入ってないキッチンでは,
アンクレットが肌に冷たかった.


応援メールをくれた留美ちゃんに返事をした.



「ダメだったしょぼん
なんか,今は仕事の事もあるから
返事できないって.
でも,考えてはくれてるみたいだから
良かったニコニコ」



「よく頑張ったねチョキ
明日ちゃんと泣かせてあげるからドキドキ」


さすがは留美ちゃん.
泣くのは明日にしよう.


それからは,いつもの2人だった.
色んな話して,
他愛もないことで笑って.


「ジュリア.」

幸人はたまにふざけて私の事をそう呼ぶ.
理由はわからないけれど,
今日も呼ばれたその名前は
私を変らず包んでくれた.




今日こそは言おう.

そう決めて,
ひとまず作戦会議に
留美ちゃんのところに向かった.
その後,幸人と留美ちゃんの彼氏と4人で
ご飯に行こうとなっていた.


私たちを引き合わせてくれた留美ちゃん.
だから,一緒にゆっくり話したかった.
留美ちゃんがその後の話へのいいアシストも期待して...



留美ちゃんの家には
悩んでる優衣も一緒に.



優衣のお姉ちゃんな存在でもある留美ちゃんは
ヒゲちゃんの話を聞いて一言.



「とりあえず,ここに,呼ぼう!!!」



いや,今の話聞いてた?
今日の約束は大丈夫?


本気でそう思ったけれど,
ヒゲちゃんの友達に何とかして
留美ちゃんの家まで連れてきてもらった.
その友達は,まさかの気まずい彼だったけれど,
留美ちゃんも知らないから,仕方が無かった.


家に来るまでの時間,
「ヤバイ,手が震えて化粧が直せない.
ヒゲちゃんくるなら,もっとおしゃれしとくべきだった..」

そう,優衣は騒ぎまくっていた.



ヒゲちゃんが来た後の優衣は見てるこっちが
苦しくなるほど,恋,してた.


いいたいこととは違うどうでもいい話ばかり.
今までの優衣の恋愛とは全然違うことを実感した.

そして,訳の分からないままヒゲちゃんが帰り,
留美ちゃんの彼氏と友達が遊びに来た.

仕事が遅い幸人が来るまでには
友達も,気まずい人も,帰る予定だった.


この家には本当にいろんな人が遊びに来る.

「ちょっとタバコかってくるね.」
そう言って留美ちゃんと彼氏が出て行った.

そんなメンズの中に一人残された私.
若干戸惑いながらも,早く幸人に会いたいと
そればかり考えていた.


そして,またインターホンがなった.

「今度は誰だろ??」

そう思っていたら,
ドアを開けてきたのは,幸人とスタッフの友達だった.



「早かったね?」

「うん.予定より,早く仕事終わって,
留美ちゃんのところにいると思ったからさ.」

気まずい彼と幸人が当たり障りのない会話をしたりしていた.



「俺ら,ちょっとイベント行ってくるわ.」


そう言って,留美ちゃんが帰ってくるのも待たず
帰っていった.



「下で幸人と会ったけど...」

「うん,さっききて,イベント行くってすぐ帰ったよ.」

「マジ??
この状況,幸人怒ってなかった?」


「多分..」


「俺も,幸人さん会いたかったのに.」



留美ちゃんが気にしていた.
確かに,怒ったと思った.
早めに来てみたら,留美ちゃんはいないし
私一人,男の子たちの中で話してる.



「とりあえず,イベントにも行きたいし,
幸人の様子見に行こうか?」

そういって,みんなを帰し,
3人でイベントに向かった.



T.I.が爆音でかかる中
幸人の姿を探した.



「樹里ちゃん来たんだ.」

その笑顔にさっきのこと
気になってないみたいでほっとした.



なんで,いろんな事
空回りしちゃうんだろ???
私はただ,一緒にいたいだけなんだけど.
タイミング,悪すぎ.

誰になんて思われてもいい.
だけど,幸人には
遊んでる子とか思ってはほしくなかった.

隣でしつこく話しかけてくる男に,
幸人が見てたらどうしてくれるのよ
って思いながら,
追い払って
なんかクラブに居れる気分じゃなくなって
留美ちゃんの家に戻った.


しばらくして,
留美ちゃんが戻ってきた.


「幸人が家で待ってるっていってたよ~.」

そういいながら,帰ってきた.


「ねえ,留美ちゃん?
私,今日告白してくる!!!
結果とかじゃないし,
今だって付き合ってるのと変わらない.
けど,やっぱ好きって言いたいから.」

「うん.
樹里ちゃんがんばっておいで.
今は,仕事のことあるからさ,
ちゃんとって言うのは難しいかもしれないけど,
幸人の気持ちはきちんと樹里ちゃんに向いてるから.」


「留美ちゃん,ホントありがとね.
行ってくる!!!」



そういって,留美ちゃんの家を後にした.

なんて言おうって考えながら.
家へ向かう足が震えて,
お気に入りのクロエのバッグを持つ手に力が入った.

いつの間にか粉雪が降っていて,
なんだか,泣けてきた.

今年の秋に,
なんかいいことあればいいなって思いながら買った
MURUAのミニスカート.
サイズぴったりだったはずなのに,
いつの間にか大きくなっていて.


「私,なんか,ちっぽけになっちゃったな.」

そう思った.
幸人が居なきゃ,
ほんとちっぽけ.



大きく深呼吸をして,
玄関のドアを開けた.