「死期の迫った歴史学者に注意せよ」 | Dustbin of Life

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It is like a finger pointing away to the moon.

『死期の迫った歴史学者に注意せよ』


「これから地球を破壊します」
 宇宙ステーション『スペースフロンティア』を乗取った世界的歴史学者ヤマシタは、一冊の分厚い本を小脇に抱え、ライブカメラに向かって全くの無表情でそう宣言した。
「これをもって、地球の歴史はその幕を下ろすことになります」
 宇宙服から伸びる首はまるで浜辺に打ち上げられた流木のように生気がなく、無重力空間の影響で膨張している眼球はひどく充血していた。震える頬の皺は、エイリアンにでも操られているかのように不快な波長で揺らめき、彼の異常さを完璧に演出した。
「狂ってるな」
 宇宙ステーション管制室長クーガーは、旧知の仲であるヤマシタを映し出す管制室内の大型モニターを見て、そう呟いた。
「先週退役したばかりのこの宇宙ステーションには、地球を一瞬にして消滅させる最終兵器『ネオビッグバン』が搭載されているのです」
 その言葉に宇宙ステーションの地上管制室はどよめいた。しかし、クーガーだけは不敵に笑い、その表情を見た彼の秘書官であるアンジェラは、発射装置らしき赤いボタンを誇らしげに掲げるヤマシタ以上に、自分の上司に恐怖を覚えていた。
「そして、このボタンこそが、その最終兵器の発射ボタンなのです」
 本当なのですか、とアンジェラはモニターから目を外してクーガーに尋ねた。いつもならクーガーの呼吸を読み取り、完璧な間合いで発言する優秀な女性秘書官が激しく動揺していた。しかしクーガーはその問いに答えようともせず、彼女の肩を叩き、ヤマシタを映し出すモニターを指差し、博士の言葉を聞くように促した。
「何故、地球が消滅しなければならないのか。世界中の皆さんには知る権利があります」
 お前に何の権利がある、と主席管制官が吼え、こんな映像を世界に流せるわけがないじゃないか、と若い事務官が悲鳴を上げた。
 室長は博士の友人ではないですか、説得しないで良いのですか、というアンジェラの声にクーガーは、
「無駄だ」
 と首を振った。
 罵声が飛び交うなか、アンジェラは両手で口元を覆い、足を震わせながら博士の言葉に耳を傾けた。
「世界中の皆さん。どうか冷静に、私の言葉を、最後まで聞いてください」

(明日につづく)