「若い女の死体なんて、ないじゃないですか」
「信じて下さい。本当にここに」
こんな早朝から駆り出され、しかもそれが誤報だと判断して警官たちは苛立っていた。
「このことは分駐所にも報告しておきますからね」
「それは結構です」
「それより麻見さんとかおっしゃいましたね。あなたはこんな時間にここで何をしていたんですか」
俺は警官たちに昨夜の出来事をかいつまんで話した。
「じゃ、自分が何故ここにいるのかも判らないほど酔っぱらっていたってことですか」
「済みません。何も記憶がないんです」
「これからどうします」
「え」
「だってあなた、財布も警察手帳もないんでしょ。どうやって立川まで帰るんです」
そうだった。
ここは無理を言っても寄りの駅まで送ってもらうしかない。
「あの、ここはどこなんですか」
パトカーの中でそう訊いた俺に、警官が呆れたようにこう応えた。
「日光ですよ。さっきあなたがいたのは、黒川って川ですけどね、あんなところに釣り船なんかありませんから」
日光だと。
俺は警官に頼んで警察署に連れて行ってもらうことにした。
このまま駅へ行っても、出勤時間までに立川には戻れない。
しかもこのいきさつを課長に上告しなければならない。
「それは構いませんがね」
警官は渋々俺を乗せたまま今市警察署に向かった。
次々と出勤して来る署員たちの好奇の目に晒されながら、俺はひたすら課長が出勤する時間が来るのを待った。
午前八時。
署の電話を借りて立川分駐所に電話をかける。
電話に出たのは当直の同僚、川野だった。
「川野か。麻見だけど」
もうすでに何等かの連絡が入っているようだった。
「麻見、おまえ何やってんだ。課長、もうカンカンだぞ」
「直接報告したいんだが」