腐蝕の構図5 | ぶるーす33 HELP THE POOR!
『構わんよ。たまには息抜きせんと、

こんなとこにはおれんわ』

『ほな、息抜きがてら相談に乗って

えや』

俺はレポートを見せながらプロジェ

クトの説明をした。

『おもろいな。これ、絶対いけると

思うわ』

『問題は実現可能かどうかちゅうこ

となんや』

『いくつか細かいところは付け加え

んといかんやろうけど、基本的には

これでええと思うわ』

『何や、拍子抜けやな』

『何でやねん』

『お前みたいな専門家が、ああせえ

こうせえ言うてくれたらますます信

憑性が増すがな。こんなん俺が考え

たただの素人のアイディアなんやで』

『そうか。最近の素人は、なかなか

やりよるな』

田中は俺にハイタッチを求めて来た。

『それにしても、よう会社がゴーサ

イン出してくれたもんや』

『びっくりするやろ。俺、プロジェ

クトリーダーやで。しかも人事部長

兼任や』

『お前の会社て、従業員3人くらい

やったか』

『斉藤エレベータ工業。従業員総数

5500名』

『そんなにか』

『嘘や。550名』

今度は俺が田中にハイタッチを仕掛

ける。

『問題は球体やねん。球体を円柱の

中で上下させるんやが、各階に停ま

った時に足元に隙間が出来るんや』

田中はにやりと笑ってレポート用紙

に絵を描き始めた。

『こうしたらええやん』

田中のアイディアは、エレベータの

球体が停止位置に来ると、そのまま

前にスライドし、その状態でドアを

開閉させるというものだった。

『これの素晴らしいとこはな、扉の

閉じ代がいらんちゅうことや』

『そのまま球体の外郭に沿って引く

ちゅうことか。なるほどな』

『煙はどうする』

『ゴンドラの中の排気をきっちりや

れば問題ない』

『火は』

『エレベータホールで対応するよう

にして、円柱内には火は入って来ん

ようにしたらええ』

俺はそこで画期的なアイディアをも

うひとつ披露した。

『各階の火災情報をゴンドラの中で

も見られるようにする。火元がどこ

か知れば、逃げやすい』

『なるほど。素人が考えたとは思え

んな』

田中は今後共俺の外部ブレーンとし

て協力することを快諾してくれた。

持つべきものは親友だと思った。

早速帰社し、田中の話を数名の技術

部員に報告し、プロジェクトをより

具体化させるよう言明した。

『ここから先は速さが勝負です。ど

こからこの計画が外部に漏れるか判

りません。現に僕はさっき、外部の

人間に計画の相談を持ちかけて来ま

した。彼は重要な協力者ですが、彼

の職場にはいろんな人間が出入して

います。漏れるとはそういうことで

す。皆さん、すみませんが仕事は絶

対自宅に持ち帰らないで下さい。そ

れと、別にノートパソコンを準備し

ますから、インターネットはそっち

で行って下さい。皆さんの従来のパ

ソコンはイントラネットのみ生かす

ようにします』

俺はその他盗聴器の有無を検査した

り、技術部へ持ち込む私物や資料な

どの検査を徹底するようにした。

本来メーカーの心臓部である技術部

にはこれくらいのセキュリティがあ

ってもおかしくないのだ。


エレベータの考え方は紀元前からあ

ってアルキメデスがロープと滑車を

使ったものを開発している。

その後釣り合い重りを用いたもの、

水圧を利用したものなどが登場し、

19世紀の後半になってアメリカ人

のオーチスが蒸気機関を使ったもの

を考案した。

オーチスは落下防止装置も発明し、

その安全性を証明してみせた。

やがて駆動系は電気式になり、高

層ビルの開発に一役も二役も買う

ことになる。

高層ビルはエレベータなしでは成

り立たないのだ。

エレベータが実用化されて、すで

に150年ほど経過しているとい

うことだ。