『海を飛ぶ夢』(西) | 極私的映画と音楽のススメ

極私的映画と音楽のススメ

印象に残る映画には印象に残る音楽がある。
思い出の名場面に流れていた音楽、言葉などをご紹介


アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー 』は植物人間=生きているのか死んでいるのか?

という問題について焦点をあてた作品でした。



この作品では、尊厳死、いわゆる安楽死の是非が静かに問われています。


意識はある。

しかし体は動かない。


そんな状態にあることなど想像も出来ないが、

自分ならどうかなあ。


映画とか音楽とかがすきなんで、

それを楽しむことが出来るなら生きる希望は見出せるかな・・なんて思ったりするけど・・



大切なのは、すべてを望むことはできないけれど

その状態の自分でできうる最大限の楽しみ方を見つけることかもしれません。



同じシチュエーションを描いたのは、

クリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー 』。


ボクシングに己の人生を見出していた彼女が事故によっておった障害。

この状態が彼女にとって負けなのであれば、

イーストウッド扮する男がとった手段もやむをえないと感じることができた。



表題作の主人公ラモンにとってこの状態はどうだったんだろう。


いろいろなしがらみがあるだろうし

葛藤もあったんだと思う。


けれども彼の人生を、彼の選択を決して敗北だとは思わない。

自分の命を自らの意志で、尊厳でたつことは誰にでも出来ることじゃない。

その時点で彼は自分の人生をコントロールしきったともいえるのではなかろうか。

その意味では彼もまた勝者なのだ。



この映画のテーマ色は青、それも空のようにすがすがしい色。


空も、海も、彼の周りに存在するすべてのものたちが、自然が、

静かな色彩で彼を見守っている。


そして音。

カルロス・ヌニェスの奏でる物悲しいケルト音楽が

最後の時を静かに、やさしく彩っている。


とても静かな空気があたりを支配する

しかし厳粛な空気よりもどこか温かみを感じてしまう。



人生の薄暮の時期。

そんなややもすると翳りを帯びた風景


そんな風景と

美しい海と、規則正しく打ち寄せる波が絶妙なまでにマッチしていて。

そんなことを思った瞬間、命の尊さにとたんに気づいて衝撃を受けた。


一人の命ではない。

家族や友達や、町や集落など自分に関連するものたちすべてと

つながって人は生きている。


生きること。

その意味を深く、深く感じる映画でした。



ぜひご家族でごらんになってみてください。

そして命について語り合ってみてください。

絶対的な答えは、ないかもしれないけれど、

命をテーマに話し合うこと、それ自体が今の世の中ても大切なことだと思うから。



初掲載2006/03/19,再掲載2008/2/14