![]() | フォグ・ハイダ - The Fog Hider (中公文庫) 799円 Amazon |
やはり今作もゼンは悩むのである。侍として刀を扱う自分は本当に正しいのだろうかと。
自分のやってることをただ一途に信じて行動できる人は強く映り、疑問ばかり浮かび自分が何者なのかと問い続ける人間は弱く映る。
ただ決してそうではなく、悩み生ける人は人間に深みを増していくのだ。それは主人公ゼンを見ていれば自ずと分かるだろう。
また、人間同士の対立や感情の寄せ合いに対して理解をすることができなかったゼンは本作の戦いを通じて出会ったキクラやリュウ、敵達との関わりで理解を示していく。
沢山の人間がいて沢山の感情や考えを持つ。他者との関わりの中で生きるためにはそれぞれの人の考えを理屈を持って理解しなければいけない。しかし、それはとても労力のいることであり、時には自分を閉ざしてしまうだろう。
ただ自分を閉ざす必要はないのだ。人の世は計り知れなく、想像もつかないほどに人の世は多いのだ。
いちいち悩んでいる暇もないと考えて疑問はひとまずおいて、ゼンと一緒に前に進もう。
以下、本文抜粋。
だから、この世で生きていくというのは、単純なことではない。刀を持ち、いつでもこれが抜けるのに、それを抜かず、力に頼らず、皆が死なない道を探らなければならないのだ。(p108)
死ぬよりも先に、少しでも高い座に着きたい。人を騙し、蹴落としても、自分が残りたい。正義とはそういうものです。(p110)
『出世よりもそちらが大事だと思われたなんて、お優しいことと思いますよ』『優しくてもなぁ、誰も褒めてくれんからな』(p138)
その者は、消えたのと同じあって、亡骸は既に人間ではない。ただ生きている者には、まだそれは人の形に見える。しばらくはそう見えるということだ。(p142)
女のために強くなる者、逆に、女のために弱くなる者、このいずれもがあるということ。(中略)また逆に、弱くなるというのは、もともと秀でた才がありながら、女のために自分を大切にする、女の元へ早く帰りたい、そういう気待ちで潔い働きができなくなる。(p158)
まして、口から出る言葉は、もっと信用がおけない。人は、いつでも、どんな言葉でも、簡単に口から出せるのだ。(p177)
そうまでして、勝たなければならないのか。そうまでして、強くならなければならないのか。その答が、まだ自分の中に見つからないことが、山を下りて唯一学んだことではないか。(p252)
そして、また、戦いのあとに、大きくなった疑問を眺めることになるだろう。(p253)
そういうことが、自分にはわからなかった。人の目を通して、自分を見ることができなかったからだ。(p276)
人間は他者の目を通し、他者の心を通して、ものを見る、ものを感じることができる。それはあるときは、思いやりになり、優しさになる。またあるときは、それが最大の強さをもたらす。(p277)
なにかの技を極めれば、すべてが見通せるのに違いない。(p277、刀だけを極めようとしないゼンの心構え)
己が生きるために、人から盗む、人をおそう、人を騙す、それもまた、剣術と同じ行為といえなくもない。その違い、その境が、どこにあるというのだろうか。(p347)
いくら考えても、答えのない問題ばかりだ。答えがないことが自分でもよくわかる。それなのに考えてしまうのだから、困ったものだ。こういうのは人の質なのだろうか。(p370)
人は他者を自分の身内に取り入れようとするようだ。それぞれがその気持ちを持っているから、大勢で行動ができるということかもしれない。(p380)
ノギが泣くのを見ていると、自分も悲しくなるように感じた。(p389)
