はじめに
法律という学問を勉強し始めた初学者には、「論証」という概念を理解することが難しいと感じる人も少なくない。
何を隠そう、私のそのうちの1人であった。
では、司法試験・司法試験予備試験、あるいは大学の法律科目のテストなど、法律に関する文書を書く際の「論証」とは一体なんなのか。説明してみよう。
そもそも法律学ってどんな学問?
そもそも、法律学というのは、どのような学問なのだろうか。
ここを理解する必要がある。
法律学=解釈の学問
法律学というのは、一言でいうと「法律の文言に関する解釈の学問」である。
こういうと法哲学の先生などに怒られる気がするが、とりあえず、司法試験や大学のテストを受ける1年生諸君は「法律学=解釈の学問」という認識を持っていただければ十分である。
例えば、民法1条2項は「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」と規定している。
この「信義に従い誠実」という文言は、非常に抽象的である。
だから、この「信義に従い誠実」という文言が、具体的にどのようなケースで適用されるかといった判断を行っていく必要がある。
これが「解釈」である。
法律は抽象的でなければならない
もともとから法律の文言が具体的に定まっていれば、解釈をする必要がない。
だが、法律は抽象的である必要がある。それはなぜか。
一言でいうと、「現実に起こる事態1つ1つに法律を定めるのは現実的でない」ためである。
"人が他人を殴った"というケースでも、「うっかり手が当たってしまった」のか「殺意をもって殴った」のか、「殴られたから逃げるために殴り返した」のか、それぞれ違うのである。
また、最近ではAIなどによって特に顕著となっているが、「立法当時、想定されていなかった問題」というのも存在する。
その際に、いちいち具体的に定まっていれば、どの規定も適用できないような状態になってしまう。
だからこそ、抽象的な規定を予め設けておいて、実際の事案に対応する形で解釈していくことが求められるのである。

論証とは
では、論証とは何か。
一言でいうと、「判例や学説による文言の解釈」である。
例えば、民法94条2項は「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定する。
では、この「第三者」とはどのように解釈されるか。
裁判所は、「第三者とは、虚偽表示の当事者又はその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上の利害関係を有するに至った者を指す。」と判示する。
上の「」の部分が論証である。
論証ってどのように使うの?
では、その論証とはどのように使うのか。
先に述べたように、法律が使われるのは現実で問題が生じたときであり、法律学とは文言の解釈の学問である。
例えば、「AさんがBさんの髪の毛を勝手に切断しました。」という事例。
刑法204条(傷害罪)は、「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定する。
一方で、刑法208条(暴行罪)は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定する。
ここで問題となるのが「傷害」ってなんだ?という点である。
このような問題を「論点」という。
例えば、"髪の毛の切断"が「傷害」なら傷害罪が適用されるし、「傷害に至らなかった」のであれば暴行罪が適用されることとなる。
そこで、論点に対する説明すなわち「論証」が出てくるのである。
裁判所は、「傷害とは、他人の身体に対する暴行により生活機能の毀損すなわち健康状態の不良な変更を惹起することをいう。」とした。
そして、髪の毛の切断は、健康状態の不良な変更を惹起したとはいえない。
だから、Aの行為は「傷害に至らなかった」といえ、暴行罪が適用されるのである。
法的三段論法との関係
もっと学問的に言うと、「法的三段論法」の構成要素である。
法的三段論法は、①大前提:規範、②小前提:事実、③結論:あてはめ、と説明されることが多い。
これは大きな法的三段論法の枠組みと、論点単位の小さな枠組みの2種類がある。
どういうことか、先の事例を用いて説明する。
【大きな法的三段論法の枠組み】
①大前提:規範
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
②小前提:事実
Aは、Bに対して髪の毛の切断をした。
③結論:あてはめ
だから、Aには暴行罪が成立する。
この大きな枠組みの②が、先に述べた「論点」である。
【論点単位の小さな法的三段論法の枠組み】
②-1 大前提:規範
傷害とは、他人の身体に対する暴行により生活機能の毀損すなわち健康状態の不良な変更を惹起することをいう。
②-2 小前提:事実
Aによる、Bの髪の毛を切断する行為は健康状態の不良な変更を惹起したとはいえない。
②-3 結論:あてはめ
人を傷害するに至らなかったときに該当する。
という形である。
では、これを組み合わせて1つのものにしてみよう。
- 「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と規定されている。
- Aは、Bの髪の毛を切断しているが、これが「傷害」に該当するか。
- 傷害とは、他人の身体に対する暴行により生活機能の毀損すなわち健康状態の不良な変更を惹起することをいう。
- Aは、Bの髪の毛を切断しているが、髪の毛の切断は健康状態の不良な変更を惹起しているとはいえない。
- よって、「傷害」に該当しない。
- したがって、Aの行為は「傷害するに至らなかったとき」に該当し、暴行罪が成立する。
と、このような形となる。
もちろん、これはあくまで「傷害」という論点1つを抽出して、論証についてわかりやすく説明するため、司法試験・司法試験予備試験合格レベルとは決して言えない。
そこら辺については、予備校や法科大学院に任せることとする。
ひとまず、「論証」の使い方について、ざっくりと理解してくれれば幸いである。
まとめ
- 法律学は、法律の文言について解釈をする学問である。
- 法律の規定は抽象的になっている(必要がある)ので、それを実際のケースに当てはめる必要がある。
- それを、裁判所や学者が解釈したものが「論証」である。
- 実際のケースに当てはめるときに「これは、〇〇といえるか・・・?」と疑問になった点を「論点」といい、そこで「論証」が活用できる。
![KENスクール[PC教室]](https://img.mobadme.jp/restimgs/mobadme/banner/00/47/092_4.jpg?mid=102227)
