その人はいつも何かに怒っていた

いつも誰かと喧嘩していた

 

最初はその怒りがいつ自分に来るのかと警戒していたけど

色々と重大な出来事が重なりそれもいつか忘れていた

 

そして忘れていた頃にその人の怒りが私へと向いたのだ

ちょうどその頃何回か失礼なことを言われ憤慨していた時期だった

 

もう離れよう

そう思い連絡を絶った

 

その人の苦労話は最初は感心して聞いていたけど

最後の方は自慢にしか聞こえなかった

 

私は結局この人の怒りを受け止めきれなかったのだ

決定的なことも言われた

それは絆を絶つのには充分だった

あの人は気づいてもいないだろうけど

 

噂に聞く限りではあの人はまた誰かに怒っているらしい

あの人の怒りはずっと続くのだと思う

それは幸せなのか不幸なのかはわからないけど

そんなあの人に付き合うことはもうできない

 

最後にありがとうございましたと言ったことを向こうは多分覚えていないだろう

それが私からの別れの挨拶だった

 

あれから長い月日がたった。

おそらくあの人は自分のしたことを忘れ、何食わぬ顔をして日常を過ごしているのだろう。

そしてとっくに私のことなど忘れているはずだ。

 

あの人は自分のしたことを正しいと思っている。

でもあの人の怒りに気がつかなかった私も鈍感だったのだ。

あまりに私は若すぎた。

この苦々しい記憶を覚えているのは私だけ。

昔は苦痛でたまらなかったこの記憶も、月日と共にだいぶ和らいできた。

でも忘れることはできない。

ずっと私の心の奥底に眠っている。

 

今でも思い出す光景がある。

ベランダから眺めたあの景色を私はふとした瞬間に思い出す。

広がる住宅街のその先には墓地が見えた。

何の変哲もないその光景を見ながらまたここに来たいと思っていた。

 

あの人はきっと、今でも同じ場所にいるのだろう。

そして時々、私のことを思い出しているような気がするのだ。

どんな顔をしていたのか、どんな声音をしていたのかはもうとっくに忘れてしまっている。

でもあの景色だけは不思議と覚えているのだ。

 

もう二度と見ることはないあの光景。

私はきっとこれからも思い出すのをやめないだろう。