今日は村上春樹さんの本を。


“猫を棄てる 父親について語るとき”

文春文庫 2022年

(単行本 2020年)


村上春樹さんによる、20年以上断絶していた父親の回想記。


おそらく軍歴を基にかなり綿密に調べたのだろう。父親が何という部隊でどんな役割を担ったのかまでが、かなり細かく綴られている。


自分は村上さんより20歳近く若いが、村上さんの父親と私の父とは6歳しか歳が離れていない。

学徒出陣で出征した影響で婚期が遅れた父が、わたしの父親になったのは、40歳をとうに越えてからのことである。


・・・・・


父親と息子の関係は、結構微妙、複雑で、わたしと父もまた、今どきのともだちみたいな、ずっと仲の良い親子関係というわけでもなかった。


だから、村上さんが語る父親との断絶や、幼いころの楽しかった思い出を読んでいると、中国への出征経験も含め、強いシンパシーを感じてしまう自分がいた。


父が亡くなって10数年が経つが、いろいろな意味で、今は素直に父の影響の大きさを感じずにはいられない。


もちろん、若かったころは、そんなこと思いもしなかったし、思いたくもなかったのだが。


村上さんの父親は三度も召集を受けたそうだ。

そして母親は、婚約者が戦死した後、村上さんの父親と出会い結婚されたのだという。


当時は、ごく普通の人が何度も出征するのは当たり前のことだった。

そして帰ってきた人は、大抵は、戦地での辛かった経験についてはあまり語らなかった。


“男は弱音や愚痴を吐いてはいけない“

だぶん、そんな時代だったから、そうだったんだろう。

でも、当事者たちにとっては、どんなに辛い環境だったか、と思いを馳せる。

村上さんのお父様も、その様子や言動から推察されるに、かなり辛い経験をされたのではなかろうか。


村上さんが作中で述懐されているように、わたしも、父親が生き延びて帰国し、母と出会って、わたしという存在をこの世に誕生させてくれたことを、本当に有り難くしあわせに感じている。


自分もこれを機に父の軍歴を取り寄せようと思う。


日本でも、ごく普通の男たちが、当たり前のように戦場に行き、人を殺さなければならなかった時代があったことを忘れてはいけない、と思う。


人は生きている以上、誰もが抗えない運命の下にある。

この本は、運命に翻弄される人間の弱さと強さを教えてくれる。


よろしければ是非。

おしまい。