今週の一冊 ”思い出“ 


”だれも知らない小さな国“
佐藤さとる 作
村上勉 絵
講談社青い鳥文庫版
1980年初版 2009年第77刷

小学生のころ、世田谷線沿線の駅のわきにある小さな学習塾に通っていた。

学習塾といっても、いまの進学塾ほどの気合いの入ったものではなく、電車が通るたびにガタゴト揺れる、学校の復習や予習をする寺小屋みたいな、少人数制の塾だった。

学校から帰って、その塾に行き、違う学区のこどもたちと缶蹴りをしたり、駆けっこをしたり、授業前の教室でかくれんぼをしたりするのが楽しみだった。

その塾の教室の黒板の裏側に、使わなくなった椅子だのなんだのいろいろな荷物が置いてあって、ともだちとかくれんぼをしてるときに見つけたのが、埃まみれで転がってた講談社文庫版のこの本。

村上勉さんのかわいらしい絵とひみつの匂いのする題名に惹かれて、家に持ち帰り、なんの気なしに読み始めたら、面白くて、一気に読み終えてしまったことを憶えている。


みんなこどものころって、自分だけのひみつの場所があったと思う。


公園の木の茂みのある場所とか、通学路の片隅のお地蔵さんのわきっちょとか、
体育館の裏とか図書室のお気に入りの片隅とか。

”ぼく”が見つけた泉や小山のように、塾も黒板の裏も、わたしにとってのひみつの場所だったのかもしれない。

この本は、そういった大切だった場所のことを思い出させてくれる、温かいひなたの匂いのする本だ。

よろしければ、ぜひ。
おしまい。