今週の一冊 ”思い出“   

“死の接吻” 1953
アイラ・レヴィン  訳/中田耕治
函・扉・表紙/勝呂忠
世界ミステリ全集第8巻 1973年初版

高校時代に初めて読んだとき、強い衝撃を受けたサスペンスミステリ。
いまも読み返す度、良くできた面白い作品だな、と思う。70年前の23歳新人による処女作、というのだから驚きである。

・・・

高校大学のころ、学校に行きたくないとき、地元の図書館にフケてせっせと読み漁ったのが、この、早川書房の真っ赤な”世界ミステリ全集”と、焦げ茶色の”世界SF全集”だった。

本を手にするたび、あのころの青くさくトンガってた気持ちを思いだす。


授業には出席せず、部活には励んでいたのだから、明らかに現実逃避してたんだよなぁ。


この本がきっかけで、

たくさん人が殺されて、機会的仕組みの殺人トリックがあるミステリにはあまり興味がなくなってしまった。


自論だけど、殺人の数が、増えれば増えるほど、そして、殺人トリックがピタゴラスイッチ的(わかりにくくてすんません)になればなるほど、そのミステリの、小説としての完成度や読後満足度は低下してしまうような気がしてならない。


このミステリ全集のブックデザインは自分にとってかなり印象的だった。

(なぜか、この翻訳権独占!のページデザインが物々しさとともに凄くカッコ良く感じられた。)


勝呂さんの真っ赤な装丁、金のデザインがインパクト強く、素敵なデザインが本の隅々まで行き渡っている。

勝呂さんはハヤカワポケットミステリのカバー画で有名だが、全くその画風とは正反対のデザイン。

いま見てもとてもクールなブックデザインだと思う。


同じ巻にはアンドリュウ・ガーヴ”ヒルダよ眠れ”、ニコラス・ブレイク”野獣死すべし”も収録されているが、レヴィンだけが”時の試練“に打ち勝ったのではないかとひとり思う・・・

野心的な若者が財産家の子供に目をつけて殺人を犯していく倒叙モノなのだが、後半、一旦面白さが減速したかとおもいきや、そこからエンディングまでの数十ページのまくり方が素晴らしい。

陳腐な言い方だけど、この本を読んだことのない人は本当にしあわせだ。
だってこの面白さをこれから味わえるのだから。


”この本によって読者は、比類なきすばらしい宵をすごすことができるだろう“
by アンソニー・バウチャー

よろしければ是非。
オシマイ。