20数年前、母が亡くなる前に自室で読んでた最後の本。手に取るたびに、母はどんな気持ちでこの本を読んでたのだろう、と思う。
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初めて読んだのは、母の死後、寝室の鏡台に置かれていたのに気づいた30代前半。
正直、そのころは、本の内容にピンとくることが少なかったが、50代に入った頃からふーん、と唸らされることが多くなった。
浅草の芸能一家に生まれ育った沢村さんが語る、昔の江戸っ子の粋できっぷのいい生き方、
衣食住に関わる暮らしの知恵、
女性・女優・人間としての生き方など。
人生の先輩からのアドバイスが、シャキシャキ爽やかな語り口で語られていく。
その生き方には、まっとうな古いものを大事にしながらも、”変えなきゃいけなきゃいけないことは変えないと”という明治生まれの柔軟な合理性があったと思う。
“しあわせとは、決して魔法のランプのようなものではない。
毎日の暮らしの中で「ああ嬉しい」と感じる、小さな点のようなもの。
その点が、ひとつよりふたつ、三つより四つと、数がふえて線になってゆくように。
そしてだんだん、しあわせの輪はひろがってゆく。“
P.167から
歳を重ねるごとに、母の糠漬けのようにその良さがじわじわ沁みてくる本。
全部で105篇。一気読みせず、ちびちび読むことをお勧めします。