今日は思い入れのある一冊をご紹介しましょうか。
昭和49年(1974)初版 写真は昭和53年7版 中央公論社
中身だけでなく、“装幀”がまた良いのです・・
昭和7年(1932)軍部暴走による5.15事件で暗殺された犬養毅首相の孫娘、犬養道子さんが
“こころの中にきらめきを与えてくれた花のごとき星のごとき存在であった父や母、祖父や祖母”
そして周囲の人々に対する暖かな思い出を、幼いこどもの鋭い目線で活写した自伝的エッセイです。
昭和44年に出版されたのち、5.15事件のくだりを加えて発表されたものです。
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犬養道子さんは、若い世代の方には馴染みが薄いかもしれませんが
犬養毅首相の孫というよりは、朝ドラヒロイン安藤サクラさんの母、安藤和津さんの異母姉といったほうがわかりやすいかもしれません。
この作品はNHKでテレビドラマ化されたもの(1978年12月)を母と一緒に見て感動し、その後社会人になってから原作を読みました。
テレビでは祖父の犬養毅役を芦田伸介、その妻を確か沢村貞子さん、主人公道子は“鳩子の海”の斎藤こずえさんが演じていました。
ネットの番組データには出ていないのだけど、確かブレイクし始めた西田敏行さんも出演していて
母と二人で“演技が上手いねぇ”と話したことを覚えています。データには武田鉄矢さんしか見当たらないので思い違いかもしれませんが・・
この本を読むたびに思い出すのはこのころのNHKドラマのこと。
鶴田浩二に若き水谷豊、清水健太郎、桃井かおりの「男たちの旅路」。
中学生だった自分が衝撃を受けた「阿修羅のごとく」・・
ちなみにこのドラマが終わった翌月、向田邦子さんの阿修羅のごとくが始まったのですが・・
とにかくこの頃のNHKドラマ・・・
“土曜ドラマ”や“ドラマ人間模様”とかすごく良かったです。ホントに。
本に戻りますと・・
昭和前半の戦争に向かうまでの日本の不穏な雰囲気やその中で翻弄される犬養家の日々の暮らしが書き綴られていきますが
まずは犬養さんのその記憶力の凄さにたまげます。
こんなに小さい頃の記憶を隅々までよくまぁ覚えているなぁと。
その記憶の内容がすごく可愛いらしいのです。こどもにしかない感受性からしか書けない内容で。
高価な外国人形を誤って壊してしまい、時計を前の時間に遡らせて元通りにしようとするところなんかは胸を打たれます。
こども心に取り返せないものが世の中にあることを初めて知るシーンなんですが。
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でも、こうして振り返ってみると、この本が出版されたころは
まだ終戦から30年経つか経たないかぐらいだし、5.15事件からも50年経ってなかったんですね。
あたり前だけど、明治時代もいまよりずっと近かった。
いま、なんとなく大昔の事件として埃がつもりかけてるこうした大事件も
もうちょっとリマインドしないといけないんじゃないかな・・と思ったりするオジサンなのです。
戦争を強く反省していた昭和50年代の日本の雰囲気も濃厚に漂う一冊です。
可愛らしいこども目線で見た“大人観察日記”としても楽しめます。
バターのコクが漂う爽やかなレモンケーキのような作品。
ご興味がありましたら、ぜひどうぞ。