今日はお気に入りの外国クラシックをご紹介
「大地」パール・バック
新居 格 訳 中野好夫 補訳
新潮文庫
1931年〜35年にかけて発表された作品なので、いまから80年以上も前の作品です。
パール・バックは、実は女性なのですが、文章読んでても、なんというか女性という感じがしない。非常に男らしく雄大。
どこか山崎豊子さんを思わせるところもあります。
この物語を一言で言い表すと・・
「土の匂いのする物語。大きな大木の一生を描いたような雄大な物語」
といった感じでしょうか。
・・・・
舞台は19世紀後半から20世紀初頭の激動の中国。
大地主の黄家から、ほんのわずかな土地を借りて耕す小作農の王龍(ワンロン)は
黄家から奴隷の阿蘭(アーラン)を嫁にもらうことになった。
働きものの阿蘭を得たことで、王龍の運は徐々に上向き始め、阿片に溺れる黄家をしのぐ力を持ち始める。
幾多の苦難を乗り越え、王龍はついに大富豪に。
王龍は富を得ても、終生土の暮らしから離れることはなかったが、彼の三人のこどもたちは王龍の期待するように誰一人農民にはなってくれなかった。
長男は地主に、次男は商人に、そして三男は軍人に。
三人のこどもたちと、さらには孫たち、内乱や外国侵略で揺れ動く1930年代の激動の中国を舞台に、その家族の運命はいかに・・・
とあらすじはこんな感じなんですけど、全部で四巻からなる大作です。
実はですね、最初はまったく読む気がしなかったのです。
ノーベル賞とピュリッツァー賞受賞・・
「なんか、重そーだなー、これ。名作臭がするー。」って、感じだったし。笑
しかも、表紙はこんな感じで、スゲーくらいし。
この物語を初めて読んだのは社会人になりたてぐらいのころ。
勝手に想像してた印象とはまったく違い、ぐいぐい物語の中にひきこまれました。
文芸作品というよりは、大河ドラマとか「渡る世間」見てるような感じがしましたね。
読んでてわかりやすくて面白いし、軽いんです。とっても。
なにより「次はどうなるのか知りたくなる。」という、面白い物語の王道を抑えている。
そもそもパール・バック自身が宣教師の父の影響で、中国で中国人乳母の下で育っているので、西洋人が書いた奇妙なアジアの物語にはなってないんです。
とてもリアル。
あとは翻訳の文章がとても読みやすいんですね。
50年も前の翻訳ですから、そろそろ賞味期限切れ的になってもおかしくないのに、いまの時代でも、ゴツゴツしないでスラスラ読めちゃうのは、う〜ん、すごいなぁ、と感じいります。
ホントにすごい。この訳は。
そして多分、いまだにこの本が長く読み継がれているのは
「こどもは親の思う通りには育たない。」
という、普遍的な問題を我々の前に展開しているからではないのか、とも思うのです。
・・・
ちょっと話がそれますが・・
福島の原発事故で、福島に戻りたい農家の方々のお話をテレビや雑誌や新聞で読むことがあります。
そこで痛感するのは、土地と人間の深い繋がりです。
どんなことがあっても、自分が生まれて、そして生きる糧を育てた土の場所に戻りたい。といったような。
都会に住むわたしたちだって、土地で収穫された農作物を常にいただいているわけであって
田畑を耕していなくても、間接的に土地と繋がっています。
忘れてしまいがちだけど、それはまごうことなき事実なのです。
我が家の手作り味噌
この物語を読むと、あらためて、人間は土地と切り離されて生きることはできない。
という、当たり前のことに気づかされます。
人間は土から生まれ、土で糧を得て、そして土に還っていくことを教えてくれる物語。
長く読み継がれるものには、読み継がれるだけの理由がある。
ご興味がありましたら、是非どうぞ。