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今日は大好きな吉田秋生さんの80年代のマンガをご紹介します。


吉祥天女 昭和58年初版 小学館フラワーコミックス

わたしのブログを見てるひとは、なんか本やマンガのレビューが少ないなぁ。と思ってる方が多いんじゃないんですかね。
実は紹介したい作品はたくさんたくさんあるのですが、まずはジジイなので、細かい内容をすっかり忘れてしまっております。笑
なので、レビュー前にもう一度読み直すことにしているのです。

で、悲しいことにいまの時代に読み直してみると、正直陳腐化というか賞味期限切れしちゃったような作品がたくさんありまして、なかなかご紹介できない。このようなジレンマがございます。

やっぱりいまの目線で読んでも面白いものが普遍的な素晴らしさを持っているわけで、わたしの過去のノスタルジーだけにすがってレビューしてしまったら、初めて読もうとされる方に申し訳ない。と、このように思うのです。ということで、読み返したり、新たに読んでいく中で、ご紹介できる作品が出てきましたら、随時レビューしてまいりますので、よろしくお願いいたします。

いや、前置きが長くなりました。 ごめんなさい。
で、この「吉祥天女」、吉田秋生さんの作品群の中でも、お気に入りの作品です。いま読んでもとても面白い。昭和58年から59年にかけて別冊少女コミックに連載されていたので、かれこれ30年前のマンガになります。

吉田さんの絵のタッチは時代の移り変わりに応じて、どんどん変わっていっています。わたしは「吉祥天女」連載時くらいの割と硬質な感じのタッチが好きなんですよね。いまの「海街」なんかは、だいぶ絵のタッチが丸くなったと思うのですが、70年代のカリフォルニアから80年代前半くらいまでが、個人的には好みなのです。「海街」しか知らないひとは、この時代の作品を読むと、ちょっと驚くかもしれませんね。海街が砂糖入りのこっくり甘め玉子焼きだとしたら、吉祥は出汁巻き玉子。って感じでしょうか。

で、肝心のお話なんですが、ひとことでいうと学園物ホラーミステリーものですね。
ある田舎町の高校に美貌の少女、叶小夜子が転校してきます。神秘的な魅力を持つ小夜子は、男性女性問わず周囲のひとびとを魅了していきます。
実は少女はその町の資産家の孫だったのですが、資産家は自分の亡妻の面影を持つこの孫に自分の資産を承継させようと考えていたのです。ここに出てくるのが、高校生の涼と暁。ふたりとも小夜子に惹かれていきます。
金や欲望がうずまく中で、小夜子を巡って、男たちが激しい争いをしていくようになり、次々と事件が起きていきます。
遂には人が死ぬようなことまで・・はたして小夜子はどうなっていくのでしょうか。

まぁ、こんな感じの物語なのですが、少女に魅せられた男たちがどんどん破滅していくところが、ひじょーに怖かったですね。当時読んでいて。わたしは高校3年から大学1年にかけてリアルタイムで読んだのですが、マンガの中に流れる何か冷たいものに、こう、なんていうのか得体の知れない不気味さを感じたことを強く記憶しています。
小夜子の人格形成の中に、幼児期に男性にいたずらをされる。という内容があるのですが、こういうところなどは、最近のミステリーなどにはよく見かける話で、(東野圭吾さんの「白夜行」なんか)後年のいろいろな小説やコミックに影響を与えたんじゃないのかな?と考えてみるとなかなか興味深い作品です。 でも、ほんとに良くできたストーリー展開で、後半はこうグイグイ来ますね。話の骨格が力強い。
ちなみに吉祥天女連載時は同時に「河よりも長くゆるやかに」という素晴らしい作品も他誌に連載されていました。吉田さん、この時代はノリにのっていたんじゃないかな。と思うのです。

あと、強く感じるのは、吉田さんは、男性の生理的な部分や女性の生理的な部分を表現するのが素晴らしく上手な方だというところ。男女がナニをし終わったあとのベッドでの気だるいシーンなど、吉田さんじゃないと書けないような現実的なシーンがたくさんあるのですが、当時そういうシーンを書けるマンガ家さんはいなかったですね。はい。

作家生活40年、長く愛されるものには愛されるだけの理由がある。
昔の吉田さんに逢いたい方は是非一度読んでみてください。