涅槃の城 | 徒然草子

徒然草子

様々なテーマに関する雑感を気ままに綴ったブログです。

大乗仏教の観法に関する山部能宜氏の論文においてタイトル不明のサンスクリット本の禅経が紹介されている。仮題として『ヨ-ガの教科書』と呼ばれている当該テクストは有部系のものと見られ、20世紀初頭にドイツの探検隊が中央アジアのキジルなどで発見したものである。その中で大乗仏教の菩薩思想との関連が想像される説話があり、当該論文にて紹介されているが、興味深いので、以下、その概略を記述する。
先ず、行者は仏陀がこれから涅槃に入ろうとしている様相を観想する。この時、仏陀は鳴り物を鳴らして、声聞達に涅槃の城に入る時が来たと告げる。
すると、城の門番はこの涅槃の城に入ると、二度と出てくることは無く、入った者はそのまま寂滅に至ると述べる。
すると、行者の体に仏の十力や四無所畏を象徴する仏像群、不共の三念処を象徴する三人の男性、大悲を象徴する女性が現れる。
仏陀の体にも大悲を象徴する女性が現れ、化縁が尽き、誓願は果たされ、弟子達も成就し、涅槃は寂静になったと述べると、仏陀は諸行無常、寂静為楽の偈を述べて涅槃の城に入って行った。そして、声聞達も仏陀に続いて涅槃の城に入り、城に入った彼等はそのまま寂滅に至った。
さて、行者も彼等に続いて涅槃の城に入ろうとすると、門番が彼を止め、続いて悪趣に苦しみ一切衆生の海が出現する。そして、彼等は行者に対して自分達の救済を求め、かつ涅槃の城に入らない様に懇願する。続いて、大悲を象徴する女性が彼の心臓から現れて彼を捕まえ、行者に対して苦しむ衆生を救済する様に説得する。その時、行者において大悲が優勢となり、彼は一切衆生の海を抱擁する。
以上の話はまだ続きがある様だが、現存の既発見のテクストの断片からは続きの再現は困難とのことである。
とは言え、山部氏が指摘している様に、上記テクストは部派の最大勢力であった有部系のものとは言え、その大悲の思想は殆ど大乗仏教の菩薩思想を彷彿させるものがある。
今後、更に研究が進展して、まだまだ謎の多い部派仏教や初期大乗仏教の姿が明らかになって欲しいものである。