中世日本の蛇神信仰メモ | 徒然草子

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記紀神話において三輪山の神が蛇身で出現し、又、平安時代中期において春日大社の若宮の神も蛇身で現れた様に日本では古来より蛇に神秘を見出し、しばしば神格化が行われてきた。
かかる蛇神は水との関係から先ずは水神として、そして、水が穀物を潤すことから穀物神としても崇められ、又、蛇が生態的に脱皮を繰り返して成長してゆくことから、かかる脱皮に再生の神秘を見出した古代人からは生命の神としても見られてきた。
そして、上述の如き蛇をモティーフとする神々が次々と生み出されてきたが、中世の多様なる信仰世界においては蛇は弁才天と結びつくことにより福徳神としての宇賀弁才天が生み出されてゆく。かかる宇賀弁才天の成立に関する考察は山本ひろ子氏が中世の天台密教系の諸文献を基に優れた論考を著しているが、宇賀弁才天に関しては、いずれは山本氏の論考をトレースしながら纏めてみたいと思う。
此処で宇賀弁才天の名が出てきたが、今日、日本において各地で祀られている弁才天はこのタイプのものが多い。そして、その図像は簡単に言えば一面八臂の天女形であるが、その最大の特徴は頭頂部に宇賀神と呼ばれる人頭蛇体の神を戴くことである。
この宇賀神の出自については今日においてもよく分からない。恐らく、その名称からして、宇迦御魂神(ウカノミタマノカミ)、御食津神(ミケツノカミ)等と同じくその出発点は穀物神であったと考えられているが、その出自が記録等の点でも歴史の深い霧に包まれている分、より民俗的な性格な神であったと思われる。
中世日本の秘教的信仰の世界において上述の宇賀神、宇賀弁才天などに代表される異形の神仏は蛇はをその母胎としているケースがしばしば見られるが、異形の愛染明王である田夫愛染法の本尊の蛇形の愛染明王もその一例に挙げることができよう。そもそもオリジナルの愛染明王自体がその出自がよく分からない上に更に秘教的信仰のインスピレーションの源である蛇を通すことによって田夫愛染法の本尊である蛇形の愛染明王はますます謎めいた尊格と化している。
以上、上に上げてみた宇賀神、宇賀弁才天、田夫愛染法本尊などについて先行研究をなぞることによって纏めてみて、多少なりとも個人的に見通しをよくしてみたいと考えている。