1.ヒンドゥー教におけるガウリー
ガウリー(Gauri)はシヴァの妃パールヴァティーの化身とされる女神で、しばしばパールヴァティーと同一視されている。彼女は豊穣、穀物、生命、美、若さ、純潔、春の女神とされ、又、女性の守護者とも言われている。
ガウリー(Gauri)の名は黄金の女を意味するが、この事は彼女が、元来、穀物神であり、米などの穀物の実りや恵みを齎す太陽と深い関係があることを伺わせる。
かかるガウリーに関しては、以下の伝承がある。
パールヴァティーがシヴァの妃となる前のこと。彼女はシヴァとの結婚を望んでいたが、彼女の肌が黒かった為、シヴァの心を動かすことができなかった。其処でパールヴァティーは森に入って苦行に専心すると、ブラフマーは満足し、彼女の望みをかなえるべく、女神カーリーを作って彼女の肌の黒さをそちらに移し、パールヴァティーの肌を金色にした。その結果、パールヴァティーはガウリーと呼ばれる様になり、又、シヴァと結婚することができたとされる。
別の伝承では、『ラーマヤーナ』のヒロインであるシータはガウリーに祈願することでラーマと結婚することができたとされ、それ故、ガウリーは未婚女性の縁結びの神とも目される様になった。
この他、彼女は女神ドゥルガーの第8の化身とされることもある。
その図像は身色金色で一面四臂、温和で慈悲深い美しい女神として表現される。その上で白色の衣を着し、シヴァと同様に三叉戟、ダマル太鼓を持する図像や他の女神の様に美しい衣を纏い、砂糖黍などを持している図像などがある。
又、彼女の乗物(ヴァーハナ)はシヴァと同様に牡牛である。
2.仏教におけるガウリー
ガウリーは特に後期密教において比較的重要な尊格として登場するが、この場合、彼女は本来の配偶者であるシヴァから離れた存在となり、又、ヨーギニー(瑜伽女)としての性格が強調される。かかるガウリーの相はアウトカースト系のガウリー信仰を反映したものかとも想像できるが、確証はない。
(1)『ヘーヴァジュラタントラ』
母タントラ系密教聖典の一つである『ヘーヴァジュラタントラ』を中心とする密教の体系においてガウリーらは八ヨーギニーと呼ばれるヨーギニーのグループを形成する。彼女達は主尊であるヘーヴァジュラと妃ナイラートミヤーとの交合から出生したとされ、曼荼羅の本尊であるヘーヴァジュラ、或いはナイラートミヤを取り囲む。
此処でのガウリーは東方に位置し、身色は青黒色、一面二臂三眼の全裸であり、右手にカルトリ刀、左手に魚を持し、五髑髏冠を戴き、髑髏を束ねた瓔珞を首から垂らしている。
(2)『サーダナマーラ』
インド密教の成就法集である『サーダナマーラー』では以下の三種の図像が見られる。
①身色白色で一面二臂、右手は鉤を持し、左手は期剋印を結ぶ。
②身色青黒色で一面二臂、右手はカルトリ刀を持し、左手は髑髏杯を持す。
③身色黄色で一面四臂、右手第一手はカルトリ刀、第二手は矢を持し、左手第一手は髑髏杯と魚、第二手 は弓を持す。
(3)ニンマ派
8世紀のインド密教の行者パドマサンバヴァ(蓮華生)伝来の古密教の伝統を伝えると称するチベット仏教の一派ニンマ派において重要視されるマハーヨーガ乗のタントラの一つ『ヴァジュラキーラタントラ』においてもガウリーが登場する。
その図像は身色白色の忿怒相で一面二臂、右手は須弥山を持し、左手は須弥山世界における四大陸を象徴する輪を持し、太陽と三日月を束ねた瓔珞を首から掛けて垂らし、太陽と月を連ねた冠を戴く。かかる図像からはインド密教の伝統に属しながら、ガウリーが本来的に有していた地母神的性格が浮かび上がっていることが伺える。



