草木の声 (短歌)10 | 草木の声 (短歌)

草木の声 (短歌)

母の短歌をまとめました 興味のある方はどうぞご覧ください

9 続き

 

 

花をかざしぬ

 

菊の香り(あと)を追いくる庭を去る(おうな)の荷にある野ボタンの鉢

 

(うつつ)よりひと足ふた足ぬけ出でて叔母は童女へ花をかざしぬ

 

絶え間なく陽差しを(さえぎ)るうすき雲、肉親という者とのくらし

 

闘病の(くや)しさ見せぬ遺影かな頬笑みつづけ死の(のち)をかざる

 

ライトペン贈られむかえる誕生日残りし夢を消さずにおこう

 

スキー積み日常するりと抜けてきぬ細胞ふつふつリフレッシュする

 

前向きがプラス思考が色あせる日総身にまとうコスモスの風

 

ひとが言うしっかり者の自縛(じばく)とく結び目さがして旅に発ちたり

 

はる日和(ひより)きめごとひとつが雑談にたびたび流れすくい戻しぬ

 

 

 

()(かえ)りくるを

 

一まいの雲が千切れて差す冬陽(あか)りささんか中東ニュース

 

迷走の中をイラクへ発ちてゆく迷彩服に付けやる日の丸

 

日の丸と黄色いハンカチ(あふ)れ出し国の内部が知らぬ間に病むや

 

()りもせずくり返したる(たたか)いの聞けど語れどつじつま合わぬ

 

報復を重ねし歴史ききながら大雨三日降るにまかせる

 

 

 

 

巡り来る八月

 

花はちす開く八月巡り来る()きて帰らぬ父似のわれへ

 

硫黄島に果てしわが父の骨をおもい幸せ失なう夢みなくなる

 

硫黄島に果てし兵士の父の骨わたしの中でも風化はじまる

 

雷鳴に(すが)りし母のひざの記憶亡き後のわれを支えつづけし

 

母を連れ昔語りをききながら歩くまぼろし オミナエシ咲く

 

家のまわりに花を咲かせば冥界(めいかい)()たる人を語りだすはな

 

叔父の命手放すごとくあきらめし風邪はわたしの喉を離れない

 

おろおろとわれの指定席さがす夢予約をせずに産れきしなり

 

(かも)一羽いつまで水路に残りいる所詮ひとりとおもえば清し

 

朝穫(あさど)りのアスパラガスがぽっきりと穂先が跳びて初夏に入る

 

 

 

うるし花咲く

 

(あきら)めずとんがっている神経をいなす一樹のねこやなぎ(まぶ)

 

人混みをぬけきて払うざらざらに渇きしことば浮遊(ふゆう)している

 

肯定も否定もできぬが多くなり中途半端に生きる足()

 

短かすぎるどの一日もずんずんと重たい入り日で終りをつげる

 

旅三日家出のように姿消すうるし花咲く秋の気配(けはい)

 

雨後(うご)の森肩をよせあい(しずく)する地表の種子がいっせいに動く

 

冬を越しぎしぎし(ゆる)むほねの音にんげんらしく立ち上がろうぞ

 

(つくろ)いし骨が発するひめい聴き(いま)だ果せぬ行き先ありぬ

 

首かしげ鉄骨を組む一部始終(しじゅう)(とび)見ている ()られた止り樹

 

さむ空へ鉄骨にゆっと伸び上り目の前にあった嵐山かくす