9 続き
花をかざしぬ
菊の香り後を追いくる庭を去る媼の荷にある野ボタンの鉢
現よりひと足ふた足ぬけ出でて叔母は童女へ花をかざしぬ
絶え間なく陽差しを遮るうすき雲、肉親という者とのくらし
闘病の悔しさ見せぬ遺影かな頬笑みつづけ死の後をかざる
ライトペン贈られむかえる誕生日残りし夢を消さずにおこう
スキー積み日常するりと抜けてきぬ細胞ふつふつリフレッシュする
前向きがプラス思考が色あせる日総身にまとうコスモスの風
ひとが言うしっかり者の自縛とく結び目さがして旅に発ちたり
はる日和きめごとひとつが雑談にたびたび流れすくい戻しぬ
息の還りくるを
一まいの雲が千切れて差す冬陽明りささんか中東ニュース
迷走の中をイラクへ発ちてゆく迷彩服に付けやる日の丸
日の丸と黄色いハンカチ溢れ出し国の内部が知らぬ間に病むや
懲りもせずくり返したる戦いの聞けど語れどつじつま合わぬ
報復を重ねし歴史ききながら大雨三日降るにまかせる
巡り来る八月
花はちす開く八月巡り来る征きて帰らぬ父似のわれへ
硫黄島に果てしわが父の骨をおもい幸せ失なう夢みなくなる
硫黄島に果てし兵士の父の骨わたしの中でも風化はじまる
雷鳴に縋りし母のひざの記憶亡き後のわれを支えつづけし
母を連れ昔語りをききながら歩くまぼろし オミナエシ咲く
家のまわりに花を咲かせば冥界へ逝きたる人を語りだすはな
叔父の命手放すごとくあきらめし風邪はわたしの喉を離れない
おろおろとわれの指定席さがす夢予約をせずに産れきしなり
鴨一羽いつまで水路に残りいる所詮ひとりとおもえば清し
朝穫りのアスパラガスがぽっきりと穂先が跳びて初夏に入る
うるし花咲く
諦めずとんがっている神経をいなす一樹のねこやなぎ眩し
人混みをぬけきて払うざらざらに渇きしことば浮遊している
肯定も否定もできぬが多くなり中途半端に生きる足揉む
短かすぎるどの一日もずんずんと重たい入り日で終りをつげる
旅三日家出のように姿消すうるし花咲く秋の気配へ
雨後の森肩をよせあい雫する地表の種子がいっせいに動く
冬を越しぎしぎし弛むほねの音にんげんらしく立ち上がろうぞ
繕いし骨が発するひめい聴き未だ果せぬ行き先ありぬ
首かしげ鉄骨を組む一部始終鳶が見ている 截られた止り樹
さむ空へ鉄骨にゆっと伸び上り目の前にあった嵐山かくす