ツタンカーメンの呪い③ | ミイラ・タイムズ ~ミイラに恋して?!世界旅~

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世界各地の死生観を知るために世界遺産をはじめとしたお墓や
ミイラを訪ねた旅の記録とエッセイ。

猛スピードで走るロバに乗って王家の谷に向かうこと30分。景色を楽しむ余裕なんて全くなかった。


あまりに強く手綱を握りすぎて、手の感覚がなくなり始めた頃、ようやくロバの走るスピードが落ちてきて王家の谷に着いた。短い時間だったのに1時間以上にも思え、フラフラとロバから降りた時には船酔いならぬ「ロバ酔い」でクラクラしていた。

しかも、「トイレ閉じ込められ事件」で出発が遅れたために、既に太陽がギッランギランに照りつけていた。もちろん、観光客はウジャウジャ。

あー。物心ついた頃から20年近くこの日を夢見ていたのに、こんな状況に陥るなんて・・・。

呪われてるとしか思えない・・・。

一刻も早くツタンカーメンの墓に行きたかったけど、ロバ酔いから回復するまで、しばらくベンチで休むしかなかった。

 万事休す。

 朝から迷惑をかけっぱなしのイギリス人やオーストラリア人に申し訳なく、ますます情けなかった。が、私が休んでいる間にイギリス人がチケットを買ってきてくれた。さすが、紳士の国出身だけある。

 水を飲んで気を取り直して、ツタンカーメンの墓に向かった。


Photo by Anubis アラビア語と英語で「ツタンカーメンの墓」と書かれている入り口の看板。62は王家の谷にあるお墓の通し番号。

 
ツタンカーメンのお墓の前は長蛇の列。他のお墓に比べてかなり小さくて狭いということもあり、待ち時間は長い。待っている最中、21世紀になってから墓を訪ねて亡くなったという人の話を思い出した。

 ツタンカーメンの墓を訪ねた外国人観光客の女性が、帰国後しばらくして謎の呼吸器系の症状を発症し、亡くなったという話・・・。テレビで見た再現VTRがはっきりとよみがえってきた。

ゴホゴホと苦しみ続け、病院に行っても原因が分からず、ついには呼吸困難に陥って、酸素マスクとかも役に立たず、最後は心電図がピー!と止まり死亡!みたいな。

 テレビだから、ちょっと盛って作っているとは分かっていても、かなり衝撃的だった。


「呪い」っぽいけど、ことの真相はというと、壁画の裏に有毒な黒カビが発生していて、それが空気中に浮遊しているのを吸い込んだのが原因、というものだった。


 呪いではなくても、インパクト大!!


いやむしろ、呪いではないからこそ信憑性があり、余計に怖く感じた。だから普段はすっかり忘れていたのに、いよいよお墓に入るとなると思い出し、考えずにはいられなくなった。

呪いはないかもしれないけど、カビはあるかもしれない。それで死ぬかもしれないなんて!それは納得がいかない。というか、少なくとも私にとっては納得のいかない死に方だ。何も悪いことしてないのに・・・。

 一般的には墓の内部に入るのは罰当たりなことなのかもしれないけど、別に荒らしたりするわけではないし。入場料も払ってるし。エジプトの経済を支えているのは観光収入。それに貢献して、ツタンカーメンの遠い子孫かもしれない現代エジプトの生活の一助になってるのに。もちろん遺跡の保存・修復代にもなっているだろうし。

しかも、古代エジプト人が遺体をミイラにしたのは死後も永遠の魂を願ったため。世界中から多くの人々が訪れて、自分のことを考えてくれるなんて、ある意味永遠に生きてるってことじゃない?それなのに何で呪うの??落書きしたり、撮影禁止なのに撮影する人はどんどん呪っていいけど。私は畏怖の念をもって訪問させていただいてますから!!しかも遠い日本くんだりからわざわざ来たんですよー!しかも日本はエジプトの遺跡を破壊したり盗んだりしていないです!

色々理屈を並び立てて、心の中でツタンカーメンに訴えた。

 今から振り返ると結構、自己中・・・かなぁ??とも思う。だけど、実際この日の当日にトイレに閉じ込められてパニックだったので、ちょっと切羽詰っていた。困ったときの神頼みならぬ、ツタンカーメン頼み。

 もちろん、お墓の内部には入らない、ということもできた。でも、初めての待ちに待ったエジプト旅行。そして王家の谷は私にとってはピラミッドよりも大事で、この旅のハイライトだった。

それにどこの国に行ってもいつも思うことだけど、また訪れるチャンスがあるとは限らない。もしかしたら、これが一生のうちで最初で最後となるかもしれない。

 だから、入らないわけにはいかない。

 死ぬかもしれないことをやらずにはいられない衝動に駆り立てるツタンカーメンの魅力はすごい。ある意味呪いだ。ツタンカーメンのお墓じゃなかったら怖がりの私はあっさり退散することを選んでいたかもしれない。
 
 内部に入る順番がくる直前、なるべく黒カビを吸い込まないようにお墓の内部を見学する方法を思いついた。


                                      次回へ続く。