彼にとって、寝耳に水の言葉だった。


隼は、驚いた二人より、動じない暢の顔をマジマジと見つめた。


『そうなのか、隼⁉ いったい何処でそうなったのか、俺たちにちゃんと説明しろよ! 』


興奮した陽翔に体を揺すられた隼は、カクテルのように撹拌されて、複雑な思いだった。


『よせよ、ハルト! お前が興奮するなよ! 』


『バカ言え! これが驚かずにいられるかよ! ねぇ~先輩! そうっすよね! 』


『あっ、ああ・・・・』


突然自分に話を振られた佑真は、答えを用意していなかった。


しかも思わぬ話の展開に、狐につままれた気分で、誰を見たら良いか解らなかった。


『騒ぐなよ、ハルト! 単なるジョークに決まってるだろ! そんなわけねぇだろ! 』


隼は、撹拌された頭の中で、きっと水商売特有の冗談か甘めのリップサービスだと感じ取った。


『俺は、嘘やジョークを言ったつもりはないよ! 』


『えっ⁉ 』


さすがに東京で売れっ子ホストだった暢は、余裕綽々で、その場を牛耳っていた。


むしろ皆が注目すればするほど、その存在が輝いて見えた。


隼は、柔らかな暢の前で、狼に狙われた子羊のようだった。


『さっき俺と“友達”になる約束をしただろ。 』


にっこり笑った暢は、まるでアイドルのように、隼の心を一瞬にして掴んでしまった。


『でもそれは単に友人ってことで、その・・・・』


隼は暢を前にして、全面的な否定が出来なかった。


『あれ、俺じゃ不服かい⁉ 東京のバーなら、ごく当たり前の事なんだけどな。 』


悪戯好きな青年が、親のリーチを横でカンするような態度に、みなアングリとした表情でいた。


『俺をからかっているなら、バカにするのは止めて下さい! 』


『待てよ、隼君! 俺は、からかっちゃいないよ。 俺は本気だぜ! 』


腹を立てた隼に、すぐ暢は声をかけた。


半信半疑の隼は、黙ったままうつむいてしまった。


そこで、みかねた陽翔がすぐに口を挟んだ。


『だってよ、あんた・・・ホストだったんだろ! ホストって言えば、女相手の商売だし、本気とか言っても誰も信じねぇよ! なっ、そうだろ、隼! 』


陽翔は親友の為に、暢に本音をぶつけた。


『それは君の単なる先入観だろ! 俺が本気じゃ悪いのかい⁉ 』


『だって、どう見たってあんたは、ゲイに見えねぇよ! 』


陽翔は、何処かで躊躇いがあった。


『そりゃ俺は、バイセクシャルだからだろ。 でも俺は隼君がタイプだし、今ならそれを隠して暮らすこともないと思ったのさ! 悪いかい⁉ 』


反対に問われた陽翔は、答えに困ってしまった。


『別に悪いわけじゃないさ。 ただ、微妙だよな・・・』


トーンダウンした陽翔に、暢は静かに語りかけた。


『君らは、それぞれ問題を抱えているんだろ。 俺はホストをしてたから、そういう所はすぐに解るつもりだぜ! それに、君らだって生粋のゲイとまでは言えないだろ。 それなら俺と同じじゃないか。 』


うつむいていた隼は、思いきって口を開いた。


『本気で付き合うとか言って、経験あるんですか? 』


隼の問いかけに、暢は優しく笑ってみせた。


『なけりゃ、“バイ”なんて口外しないよ! 』


隼は、暢の言葉に少し照れていた。


『でも、じゃあ何故“友達”なんて、言ったんですか? 』


『それは君に、俺と付き合う気が見えなかったからさ。 急がずに俺のことを見て貰おうと思ったのさ。 でも彼の態度を見たら、気がかわったのさ! 』


『えっ⁉ 』


暢はあえて、佑真を見ずにいた。


隼と佑真は解ったが、陽翔は理解出来ていなかった。


『おっ、俺のことかよ⁉ 俺がなんだって言うんだよ! 』


『よせよ、ハルト! 今は自分のことに集中する時だろ。 隼の事は、隼が決めることさ! 』


佑真に止められた陽翔は、素直に従った。


『確かに・・・そうっすね! 』


とんだとばっちりをうけた気になった陽翔の気をそらすように、政人がやってきた。


『ゴメン! 待たせたかな⁉ 』


『ハルト、ほらお前の番だぞ! 気合い入れていけよ! 』


佑真は話の流れから、暢が何か感じ取ったと思った。


だから、それを指摘されなかったことにホッとしながらも、近くにいることが心地よくなかった。


なので、グッドタイミングで政人が到着したことを、内心喜んでいた。


『隼、邪魔して悪かったな。 俺たち、別の話があるんだ。 』


『先輩・・・・』


隼は、佑真にそう言われて、複雑な思いだった。


『よく話し合えよな! 大事なことだろ。 』


『隼、あとで俺にも教えろよな! 』


佑真と隼の間に起きたことを知らない陽翔は、暢の出現を100%好意的にとらえていた。



『予約席にしてもらっているんだけど、お連れの人って、彼のこと⁉ 』


政人は、手のひらを佑真にむけて、陽翔に聞いた。


『俺の部活の先輩っす! 』


『へぇ~~、やっぱりガタイがいいね! 』


政人は興味を持ったのか、佑真をジロジロと見ていた。


佑真は照れくさそうに、


『ハルトのことで、悪いっす! 』


『あっ、いえ、後輩思いの先輩ですね! 』


そこへ純平がやってきた。


『政人さん、店が混んだら、ヘルプお願いしますね! 』


『あっうん、大丈夫! 』


彼らの話を聞いて、陽翔は恐縮した。


『俺の為に、すまないな。 話はすぐに終えるからよ。 我慢してくれよな! 』


『何言ってるのよ、ハルト。 大事な話なんでしょ! 店の心配より、まず自分のことよ! ちゃんと政人さんに相談するのよ。 』


『ああ、分かってるって! ありがとな。 』


純平に励まされた陽翔は、準備された席へと移動した。



座ると同時に政人は、


『早速だけど、あの話って、ほんとなの⁉ 』


『ああ、何も嘘はねぇぜ! 』


陽翔は対面した政人を、じっと見つめていた。


『リン・ユータン君に、本気で惚れたの⁉ 』


政人は、念を押すように声を殺して聞いた。


『ああ、それで間違いないぜ! 』


キッパリ断言した陽翔に、政人はやはり驚いた。


『嘘みたい。 ミイラとりがミイラになったみたいな話だよね! ロマンティックな話じゃん! 』


『えっ⁉ 』


難色を示すと思っていた陽翔は、政人の態度は想定外だった。


政人のにこやかな表情に、付き添いの佑真も状況が飲み込めなかった。



続く