二人が目を向けると、確かにカウンターに座った隼の姿があった。
彼もまた二人をみて、驚いているようだった。
そしてもう一人、彼らを気にする人物が隼のそばに立っていた。
カウンター越しに動向を見つめるその男は、暢だった。
ただ前回会った時とは別人のように思えた。
髪も少し短くカットされているし、あのブルーのカラコンも無ければ、アクセも身に付けていなかった。
何より服もソフトカラーのラフな装いに変化していた。
陽翔は佑真の顔を見ることなく、そそくさと一人で隼に向かって歩き出した。
『どうしたんだよ、隼! なんでお前が、ここにいるんだよ⁉ 』
陽翔は、他の客がいることを気にもせず、学食並の声で、隼に話しかけた。
『ハルト、お前少し声がでかいよ! 』
隼は驚いた様相から、いつもの調子に戻った。
『バカ言うなよ。 誰だって、驚くのは当たりめぇだろ。 まさかお前がここにいるとは、思わねぇよ! 』
すると、二人の会話を聞いていた暢が、口を挟んだ。
『俺が誘ったんだ! 街で偶然会って話をして・・・その流れで俺が連れて来たのさ! 』
暢はまるで別人のような見た目で、陽翔も驚いた。
でも、よりキラキラ感が増し、王子様キャラに近くなっていたので、眩しくもあった。
『えっ⁉ どういうことだよ、隼! 』
問い詰めるような陽翔の勢いに、隼は戸惑った。
『どうって、別にただ話の流れで、そうなっただけさ! 』
隼はなんとなく、気まずそうな態度を見せた。
純平は、二人を見つめたまま、その場から動こうとしない佑真を気にしていた。
どこか普通ではない佑真の表情に戸惑った純平は、店子として振る舞うことを考えた。
『こういう店って、初めてでしょ⁉ 』
声をかけられた佑真は、自分が置かれた立場に気づいて、平静を装った。
『ああ、もちろん 』
純平は、明るい笑顔を作りながら、
『私、この店では“ミユキ”って名前で仕事してるんだけど、“ジュン”て呼ぶ人もいるのよ。 ヨロシクね! 』
佑真は、突然の話に、純平をただ見つめていた。
『やだ、そんな変な顔しないでよ! 私は、店の説明をしてるんだから、普通に聞いてよ! 』
『オオ、悪い・・・急にどうしたのかと思ったぜ。 』
『こういう店は、別に本名を名乗る必要ないのよ。 もし誰かに声をかけられて名前を聞かれたら、ニックネームでも別名でも、なんでもいいから好きな名前を使ってね! 』
『へぇ~、そうなのか。 ありがとな、 教えてくれて・・・』
軽く微笑んだ佑真に、純平は照れてしまった。
『何か解らないことがあったら、気軽に聞いてよ。 別に恐い店じゃないし、落ちついているでしょ。 意外と馴染むかもよ! 』
『俺がか⁉ それはねぇよ。 今でも十分浮いてるだろ⁉ 』
店の中に立つ佑真は、やはりガタイのいい“雄”というイメージだったが、彼の優しい口調と素朴な振る舞いは、とても好印象に感じられた。
『ねぇ、どうして二人の所に行かないの? 隼と何かあった? 』
純平は、相変わらず踏み留まっている佑真に疑問を感じて、それとなく聞いてみた。
『イヤ、別に何もねぇよ。 ただ今日の話は、隼じゃねぇからな。 』
『それはそうね。 でもまーくんも、もうすぐ来ると思うから、それまではいいんじゃない⁉ 』
『まあ~、そうだな。 』
純平の笑みに後押しされた佑真は、陽翔の後ろへと移動した。
『岬先輩、いつも世話になってます! 』
隼は、カウンターから離れて立ち上がると、頭を下げた。
『やめろよ、隼。 こんなところで・・・照れくさいだろ! 』
佑真は、隼の態度に戸惑いを見せたが、内心ホッとした。
二人で無ければ、あの話も出ないと思った。
『いつも世話になっている先輩というのが、君なんだね。 』
カウンター越しに話しかけてきた暢を初めて見た佑真は、あまりに場違いなオーラに驚いた。
『別にいつもってわけじゃないっす! 』
佑真もまた、この街では見かけないタイプの暢に、違和感を持った。
ちょっと緊張した佑真を見て、暢はにっこり笑いかけた。
『隼、お前、何か俺のこと話したのかよ⁉ 』
気がかりに感じた佑真は、すぐに彼に打診した。
『そうだよ、お前、俺たちの事を何か話したのかよ! まさか、ベラベラ喋ってねぇよな? 』
何故か隼の側から離れない暢の存在を不思議に感じた陽翔は、問い詰めるように聞いた。
『俺は、ベラベラなんて、話しちゃいねぇよ! ただ、どんな友人がいるか聞かれて、名前をあげただけさ! 』
落ちついた店とはいえ、そこは陽光溢れる学食や賑やかな会話の飛び交うカフェでもなかった。
まして、風わたる爽やかな緑を背景にした公園には程遠い環境だった。
そして、そこに集う四人の男たちは、ゲイバーという店には少し異質に見える者ばかりだった。
当然、その場に居合わせた他の客の目を引くだけでなく、それぞれが個性に溢れたメンツだった。
そのメンバーを間近に見ながら、純平は異空間にいる想いだった。
まして、彼らに漂う1種独特な空気は、何か引き起こしそうなニュアンスさえ感じさせて、怪しくも美しかった。
ただ、ニイナママのいない日に起こったハプニングを、止められる者はいなかった。
そして、肌に吸い付くような夜の熱気が、感情に油を注いだ。
『ねぇ、ここは店だってこと、忘れないでよ! 』
純平は、やっとの思いで、彼らに声をかけた。
三人が、少しバツの悪そうな顔をしたのに比べ、暢だけはやけに余裕の表情でほくそえんでいた。
『やっぱり学生だけあって、君達は仲がいいね! 』
『当たり前だろ! 』
短期な陽翔はすぐに、暢に言い返した。
でも暢は涼しい顔で、笑顔を崩さなかった。
『じゃあ、隼君と俺、これから付き合うんで、ヨロシク頼むよ! 』
『えっ! 』
『マジかよ、隼! 』
暢の言葉に1番驚いたのは、隼本人だった。
続く