行きに比べて、帰りの荷物が圧倒的に多くなる。
千葉に行くと、いつもそう。
房総で育てられた草花や道端の野草。
タマゴやニンジン(知る人ぞ知る君津の特産品)。
下総の醤油。
勝浦や勝山、富津港の新鮮な魚。
小糸在来の大豆で作られたお豆腐や豆乳。
こんこんと湧く柔らかな清水を汲んだペットボトル数本。
近所の方から頂くたくさんの野菜。
こんなもの達を詰め込んで、帰りの車はいつもいっぱいになる。
そして、そんな大量の荷物の中でも絶対に外せないもの、それが「紡」のぱん。
「紡」のぱんは、「旅ヲスル木」というカフェに土曜日だけお目見えする天然酵母のぱん屋さんなのですが、
ここのぱん、何かが違うのです。
「おいしい」という言葉では片づけられない、「土と人」を強く感じる、とても不思議なぱんなのです。
味覚というものはもちろん、口や鼻を通して脳で感じるものだけれど、
紡のぱんは、ココロと細胞にじんわりと沁みてきます。
そして、風になびく小麦畑が見えてくるような、
土や小麦や酵母の香りを含んだその風をどこまでも追って行きたくなるようなぱんなのです。
とても素敵なものを見た時と同じ気持ちになる、とても素敵なぱん。
そんな素敵なぱんを作っているのは、柔らかな陽だまりのような女性。
やっぱり「人」だな、と思わせる不思議な不思議な紡のぱん。
荷物は増えて帰って来るけれど、私自身はシンプルになる。
そんな感覚が心地良い、房総半島。
草花は野山に咲いているのが一番と思いつつ、
祖父の山で見つけたバイカウツギの可憐な白い花びらと甘い芳香に負け、
一枝拝借。
こちらも車に積んで帰って来ました。
マンチェスター。
自爆装置のスイッチを押すのも、
パンを焼くオーブンのスイッチを押すのも、
同じ人間の手。
その朝、涙がこぼれてしまうような優しい味のパンを食べていたら、
何かが変わったかもしれない。
食べたものが、人を作る。
命にとって大切なものは、手間も時間もかかる。
弱さが、強さ。