先々週に、人魚を食べて不老不死になった女性が出てくる物語をご紹介しましたが、今回も食材としての人魚が描かれた物語。






「おひれさま 〜人魚の島の瑠璃の婚礼〜」

高山ちあき:著

束原さき:装画

(集英社 2024年7月刊)





美大生の柚希(ゆずき)は友人の葬儀のため、一人暮らしの京都から久しぶりに故郷の天沼島に帰ります。

高知県沖にある天沼島には古くから人魚漁の伝統があり、当り年に生まれた男女がくじで選ばれて夫婦となり、島守を務める風習がありました。その約束を破ると「おひれさま」とよばれる人魚の祟りがあると言われています。

柚希は花嫁に選ばれていて相手も決まっていますが、時流に合わない風習でもあり柚希の代から婚礼は形だけということになっています。

ところが島に帰ると島民たちは柚希を本当に結婚させることに執心していました。柚希は幼馴染の明人(あきと)に想いを寄せていて、島の決めた結婚はどうしても受け入れる気になれません。

島に滞在している間に形だけの婚礼を行う予定の柚希ですが、亡くなった友人の死因が不可解なものであることを知ります。更に柚希の周囲に次々と怪事が。島民は偽りの結婚でおひれさまを欺こうとした祟りだと怯えます・・・。




主人公の恋愛にミステリーの要素が加わった作品。

人魚漁の人魚とは伝説だけで本当は別の魚かと思いきや、人間の顔に魚の胴体という、本当の人魚でした。とはいえ人語を喋るわけではなく、表情のない目、ワカメのような頭髪とギザギザの歯を持つ不気味な容貌。

高知県に人魚伝説ってあまり聞かないけれど(八百比丘尼伝説はあるようです)、どうして舞台が高知なんだろう。ただ高知弁で喋られると怖ろしげな因習も真実味を帯びてくるという効果があります。呪術のイメージがあるからかな?

スリリングな展開に引っ張られて一気に読めました。含みのあるエピローグも良いです。もしかして続編もあるのかな、と思わせました。