アンデルセンの人魚姫が続いたので、ちょっと毛色を変えて日本の伝説をご紹介しようと思います。
長野県は戸隠神社の三本杉にまつわる伝説です。
昔、若狭の小浜に住む漁師が、妻を亡くし3人の子どもと暮らしていました。ある日漁師は海で泳ぐ美しい女性を見かけました。近づいてよく見ると女性の体には鰭があります。これが話に聞く人魚かと思った漁師は珍しさから網で人魚を捕まえると、人魚の命乞いをするのも聞かず殺してしまい、更に肉を切り取って持ち帰りました。
翌日、人魚の肉を戸棚に入れて漁師は漁に出ましたが、その間に3人の子どもたちが戸棚の肉を見つけて、何の肉かも知らず食べてしまいました。
帰ってきた漁師は子どもたちが人魚の肉を食べたと知って不安になりました。人魚の肉を食べると人魚になるという言い伝えがあったからです。はたして子どもたちの体には次々と鱗が生えてきました。
心配で眠れぬ日々を過ごしていた漁師がふとまどろんだ時、「小浜の漁師よ、人魚の霊を祀るためにも剃髪して出家せよ、そして戸隠大権現に詣で3人の子どもを救うため3本の杉を植え、無益な殺生の後悔の真情を神に祈れ・・・」というお告げを受けました。
漁師が目を覚ますと傍らで3人の子どもたちが人魚に変じた姿で亡くなっていました。
漁師の驚きと失望はたとえようもありません。
お告げの通りに出家した漁師は妻子の位牌を携えてはるばる戸隠大権現に赴き、そこで3本の杉を三角形の配置で植えて現世の減罪と家族の菩提の弔いを祈ったのでした。
戸隠神社の三本杉の由来のお話ですが、若狭の八百比丘尼伝説の変形バージョンでしょうか。
人魚の肉を食べたら不老不死になるどころか人魚になって死んじゃうとは。高橋留美子の人魚シリーズを思い出しました。
この話では主役は人魚を食べた子どもではなく、親の漁師なんですね。もっとも、この漁師は出家したのち八百比丘と名乗っています。お告げの中で戸隠三社の御庭草を八百日踏むようにも言われているので、それに因んでの名前のようです。
戸隠信仰は昔から全国に知られていたようですが、小浜の漁師が弔いのため戸隠まで来て杉を植えた、というのはやや強引な感じもして、なぜ戸隠が若狭の人魚伝説と結びついたのか不思議です。
戸隠山は昔は女人禁制だったので、諸国を遍歴した八百比丘尼の伝説を用いることができず男性の話にしたのか?などと考えてみたりしました。
本書には、禁を破って戸隠神社に詣でようとして罰があたり、石に変えられてしまった比丘尼の話も載っています。
戸隠といえば私は小学校高学年のとき遠足だか林間学校だかで行った覚えがあります。でも現地でどこを巡ったのか、もう全然覚えてない
子どもの頃に連れられて行った観光地、大人になってから自分の足で再訪するのもいいかも、と思ったりしています。
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「戸隠譚(ものがたり)」
宮沢嘉穂:著
(戸隠史説研究会 1964年8月刊)