先週はアイルランドに伝わる人魚のお話をご紹介しましたが、今回はスコットランドの人魚伝説です。
1929年刊行の世界神話伝説体系のシリーズを改訂した本からご紹介します。
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「世界神話伝説体系39 スコットランドの神話伝説」
内田保:編
(名著普及会 1981年2月刊)
本書に載っている人魚の伝説は他の本で読んだものもありますが、細部や結末がちょっと違っていたりします。
アイルランドの人魚伝説にもあった、人魚から身につけているものを奪って海に帰れなくして妻にする話はスコットランドにもあります。
本書で紹介されている話では、隠されていた上着(アイルランドでは帽子でしたがスコットランドは上着)を見つけて海に帰った人魚の妻は、残した子どもたちを心配して夜中にこっそり戻って子どもの寝顔を見て帰っていく、戸口にはいつも鱒や鮭が置いてあった、とあります。二度と戻らない人魚の話もあるけれど、この人魚は情に厚いようです。
人魚は「波間の少女」と呼ばれ下半身は鮭の鱗のように輝いている、ということなのでスコットランドの人魚はサーモン系? それだけ鱒や鮭が土地の人たちに馴染みのある魚なんですね。
波間の乙女よ!
霧は立ち初めぬ
星は輝き初めぬ
汝(な)が姉妹(いも)は
汝が帰りをぞ待ち侘ぶるに
などて汝は帰らざる。
上着を取り戻した人魚が、海に帰ろうとするも子どもたちを見棄てて行くのは忍びない、と迷っているときに海から聞こえてきた歌。
本書の元本が古い時代のものなので、詩の訳文も趣があっていいです。
人間が人魚を捕まえる昔話はよく聞きますが、人魚に攫われた人間の話もあります。
マルコ・マク・フィーという男が岩の多い浜辺を歩いていると人魚に捕らえられ、洞穴に閉じ込められてしまいました。
帰らない夫を心配した妻が飼っていた大きな黒犬に夫を探させると、犬はすぐにマク・フィーを見つけ人魚に飛びかかって闘いました。
犬は人魚を殺しましたが自身も深傷を負って死んでしまい、忠実な犬を失ったマク・フィーは悲しみながら家に帰りました。
人魚に誘惑されて連れ去られそうになった主人を飼い犬が吠えて引き戻す話も他の本にありました。犬は単に番犬というだけでなく魔物も追い払ってくれる存在なんですね。魔物自体が黒犬に姿を変えるという伝説もあるので、大きな黒犬というのが既に特殊な力を持つ存在なのかも。