先週ご紹介した「サブカルチャー妖精学」の著者、高畑吉男氏はアイルランドを中心とした妖精譚の語り部として活動されています。妖精学のフィールドワークのためアイルランドに留学の経験もある高畑氏の著書「アイルランド妖精物語」が面白そうなので読んでみました。






「アイルランド妖精物語」

高畑吉男:著

(戎光祥出版 2021年7月刊)




アイルランド各地に伝わる妖精物語を地域ごとに紹介した本。妖精譚と合わせて各地の特色や雰囲気も書いてあり、ガイドブックとしても使えそうです。

アイルランドはそれほど広大な面積の国ではないのに、東西南北あらゆる土地に多くの妖精物語が伝わっていることが興味深いです。


人魚の話で取り上げているのは「ゴルラスの夫人」。

以前にこのブログでご紹介した、人魚の話を集めた洋書の中の「The  Enchanted Cap」と同じ、ディックという男性が人魚と結婚したお話です。

洋書のほうはディックの感情や人魚が海に帰る場面などがドラマチックに書いてありましたが、本書はシンプルに、昔話の味わいで淡々と紹介しています。

魔法の帽子を取り戻した人魚が、ちょっと元の世界に帰ってまた陸に戻ってこようと海に入り、それきり現れなかったのは洋書と同じです。

妖精の住む世界は冥界でもあるので、基本的には人間界との往還はできないのかも。

巻末の妖精名鑑には代表的な妖精が載っていてメロウ(人魚)もありました。モルーアやマイジィェンマーラーとも呼ばれているんですね。



本文に挿絵はありませんが、巻頭に4ページ分のカラー写真があり、どれもアイルランドの素朴な自然風景や港町を写しています。

寂しげな海岸や草原にポツンとある大きな岩、石造りの遺跡など、ふと妖精の気配を感じそうな場所です。

あとがきに書かれているように、妖精譚を聞いて不思議に思ったり怖くなったりして揺らぐ心の隙間に、妖精たちはやって来るのかもしれません。