子ども向けの童話やファンタジー小説だけでなく、ゲームやアニメなどに多く登場する妖精的なキャラクター。

そのようなゲーム、ライトノベル、アニメといった日本のサブカルチャー作品を妖精学の視点から考察したユニークな本をご紹介します。






「サブカルチャー妖精学」

高畑吉男:著

(星海社 2023年10月刊)





本書で取り上げている作品は人気のゲームやラノベ、ジブリ作品、私には懐かしい80年代のアニメなど幅広いですが、人魚について詳しく書かれているのは「ツイステッドワンダーランド」の項。

ツイステは白雪姫や不思議の国のアリスなどディズニーアニメのおとぎ話をモティーフにしたゲームで、女性の人気が高いのは知っていましたが、私はゲームを全然やらないので内容がわからず・・・。

でも本書のおかげでどのような世界観の作品なのか、少しだけ知ることができました。

ゲーム中の設定のうち、海の魔女の慈悲の精神に基づく「オクタヴィネル寮」はディズニーの「リトル・マーメイド」がモティーフ。登場人物の簡単な解説のあと、「なぜ人魚は人を誘惑するのか」について考察しています。その中で例えとして挙げられた、オークニー諸島に伝わる女王イブと人魚たちの話は面白く読みました。

かつては人間と変わらない姿だった人魚たちが女王イブの怒りを買って鱗のパンタロンを穿いた姿になってしまった話で、そこからスタバのシンボルのような二股の人魚に話が及びます。


他にもディズニーアニメの項では「なぜアリエルはブラジャーをつけているのか」ということを、ディズニーアニメの妖精の役割という視点で掘り下げています。妖精も人間の社会の変遷によって姿や役割を変えていくんですね。



本書を読んで西洋由来の妖精たちはこんなにも日本の文化に溶け込んでいるんだな、と改めて気が付きました。日本にも万物に神様が宿るみたいな考え方があるから西洋の妖精にも抵抗がなかったのかも。


著者の高畑氏は日本とアイルランドを行き来し、アイルランドを中心とした妖精譚の語り部として活動されています。

妖精学にも詳しい氏によれば、和製ファンタジーでよく見られる付喪神は欧州の妖精に比べると特殊なんだとか。

人工物が長い年月を経て化けるという話は欧州では馴染みがないようで、高畑氏が「刀剣乱舞」についてアイルランドの人たちに説明する際は、刀が人の姿になることを理解してもらうのが難しかったようです。

まあ刀がイケメンになる必要はないかもしれないけど、どうせ化けてくれるなら美形のほうがいいよね(笑)。

自然界を擬人化したともいえる妖精。付喪神のように何でも擬人化したがる日本人の文化が、妖精が日本で広まる一因になったのではという著者の見解には納得しました。


本書では先に挙げたような人魚の話の他にもアイルランドの人魚譚が紹介されていて、初めて聞くものもあり興味深かったです。

日本の文化の中で外国の人魚(いわゆるマーメイド)はどんな捉え方がされているんだろう、などと考えてみるのも面白いですね。