アトリエサード発行の雑誌、トーキングヘッズ叢書(TH)最新号の特集は「LOST PARADISE」。

私はこの特集で、先週ご紹介した二階健の「赤い蝋燭と人魚」を知ったのでした。






「TH No.97 LOST PARADISE 失われた楽園」

(アトリエサード 2024年2月発行)





「純真な人魚が信じた楽園」のタイトルで、二階氏の「赤い蝋燭と人魚」を紹介しています。

印象的ないくつかのヴィジュアルを載せていて(本書表紙もその一部)、刊行記念の個展の情報もあったのですが、私が本書を手に取ったときには既に終了していました。残念悲しい



人間の世界という楽園を信じて我が子を託したのに裏切られた人魚の絶望は深かった・・・とはいえ現代の感覚からすると、そんな不確かな場所に大切な子どもを置き去りにしなくても、という声もありそう。

でもそれだけ人間に絶大な信頼を寄せていたであろう人魚の心情を想像します。

お金に目がくらんで心を失う人間への批判、というのが小川未明の意図するところなのでしょうが、私が「赤い蝋燭と人魚」で一番印象的な場面は冒頭の、母人魚が暗い寂しい海を眺めているところ。

道徳的なテーマより、この場面が最も胸に迫ります。それと最後の真っ暗な海から山のお宮を目指して灯が上っていく場面も幻想的。

小川未明の童話はイメージが最初にあって物語は後付けなのでは?と思ったりもします。美しかったり哀しかったりの場面が幻燈のように浮かんで、そこに話を当てていく、みたいな。

だから全体で見るとちょっと筋が分かりづらかったり、主題がぼやけている話もあるのではないか。などと勝手に想像しました。

でも案外そのほうが人の記憶に残るかもしれませんね。目が覚めたあとも見ていた夢の断片がいつまでも頭に残っているのと似ています。




ところで、本書の特集でもう一つ嬉しかったのは「海のトリトン」についての記事があったことです。

「失われた楽園」への固執 〜TVアニメ『海のトリトン』のタイトルで文章を寄せている宮野由梨香氏は、かつて古澤由子名義で「『海のトリトン』の彼方へ」という本を書かれた方です。

記事では著書での評論のダイジェストに加え、TVアニメのトリトンについて現在の目線で新たに考察しています。

「『海のトリトン』の彼方へ」は私も持っていますが、今もトリトンについて書いてくれているのが嬉しい。

手塚治虫の原作と、富野由悠季演出のTVアニメは内容がだいぶ違うんですよね。

私は好きと言う割にはTVアニメのほうは通しでちゃんと観ていないのです。観ていてもピピにばっかり気を取られてた(笑)。映画のほうもDVDでもう一度観てみたいです。