来年の干支の辰に因んで、今回は龍についての本をご紹介します。






イメージの博物誌

「龍とドラゴン 幻獣の図像学」

フランシス・ハックスリー:著

中野美代子:訳

(平凡社 1982年11月刊)





東洋の龍と西洋のドラゴン、どちらも似たような姿の想像上の生物ですが、皇帝のシンボルにも用いられる龍に対し、聖人に退治されるような悪者のドラゴンといったように東西で逆のイメージが多く見られることが不思議です。

本書では龍とドラゴンのイメージの起源、世界各地の伝説を、民族学者の著者が多数の図版を交えながら解説していきます。

東洋で龍やその仲間の大蛇は水の伝説との結びつきが強く、その関連で人魚も登場します。

西洋も、巨大な蛇の怪物は川や海などにまつわる伝説が多くメリュジーヌも取り上げられています。(載っている図版のメリュジーヌは下半身が蛇のタイプですが)

様々な伝説や逸話について豊富な知識をもとに軽妙な筆致で書かれ、各資料から引用された図版も多いので見応え、読み応えがあります。

本書は冒頭に中国文学者である訳者の中野美代子による解説があり、中国の龍について多方面から取り上げています。

南海の底で機を織り、流す涙は真珠になるという鮫人(こうじん)という人魚についても書かれていて、当初は蛟人であったものが、鮫人という字に変わったあたりから下半身が魚の人魚のイメージになったのではないかと考察しています。やはり最初は龍や蛇のイメージだったのでしょうか。

海底で機を織り続ける人魚、って美しいイメージですね。人魚の涙が真珠になるというのは東洋的な想像なのでしょうか。あまり西洋の伝説では見ないように思います。



平凡社の「イメージの博物誌」シリーズは本書の他にも「占星術」「生命の樹」「錬金術」など面白そうなタイトルが揃っていました。80年代はビジュアルに凝った、マニアックな内容の本がけっこう出ていたような覚えがあります。