このところ漫画作品が続いたので、今回は小説をご紹介します。

主に古い時代の中国が舞台の幻想譚が多い、中野美代子の短編小説です。




主人公は様々な国からの輸入品を管理する、島国の役人。

本来は決められた施設で売買しなければならない品々を、業者たちから賄賂をもらって密かに内覧会を開いています。

ある日、見知らぬ毛皮商人が持ち込んだ美しい毛皮を気に入った役人は高額で買い取ります。

北の海にいる狗頭人身の海獣のものという毛皮は今まで触れたことのない手触り。

心地よさのあまり役人がその中に身を横たえると・・・



タイトルが既に結末を表していますが、毛皮に包まれた役人はそのままアシカのような海獣になってしまいます。

人魚がどこに出てくるかというと、海獣になって海に飛び込んだ主人公のまわりを多くの鮫人(人魚)たちが泳いでいる、というラストシーン。

鱗をきらめかせながら泳ぐ美しい人魚の描写は短いけれど鮮烈なイメージを残します。

役人が毛皮に包まれて海獣に変身していく様も妖しく美しい。淡々とした筆致がかえって幻想的な雰囲気を増幅させています。

この他、本書には古代の中央アジアを舞台にした色々なテイストの不思議な話が収められています。

ユーモラスだったり艶っぽかったり残酷だったり・・・

時間も空間も超えた幻想世界に浸れる作品集です。





「契丹(キツタン)伝奇集」

中野美代子:著

(河出書房新社  2021年9月刊)

※1995年刊行の河出文庫の新装版です。



この新装版のカバー画がとても素敵。

朱華という作家さんで、検索したら美しい水彩画の作品がたくさんありました。個展などあったら行ってみたいです。