今日は講談社青い鳥文庫の
「お姫様」の出てくる童話集の中から
佐竹美保が挿絵を描いた「人魚姫」をご紹介します。
絵本ではないので挿絵は一つの作品につき2~3枚ほど。
最近は文庫であってもフルカラーの口絵や挿絵がついている本もありますが、
本書の挿絵はモノクロのみです。
でも白黒のメリハリがある画面と滑らかな描線の、見やすく美しい絵です。
「人魚姫」の挿絵は2枚で、
1枚は嵐にうねる波間を、難破した船を目指して大きく跳躍する人魚姫の絵。
荒れる波が全体に描かれ、画面の上部にシルエットになった帆船、
画面の下にこちらに背を向けて飛び上がる人魚姫が描かれます。
人魚姫の姿は小さいのですが、そのぶん嵐の海の恐ろしさ、激しさが伝わってきます。
もう1枚の絵は海の魔女。
見るからに“老婆”という感じの魔女が
薬を手に陸を目指して泳いでいく人魚姫を見ています。
2枚しかない挿絵の1枚が魔女のアップ、というパターンは
私の持っている「人魚姫」の本の中でも珍しいような気がします。
でも海の魔女というのは、画家の個性が一番発揮できるキャラクターですね。
「人魚姫」の訳は立原えりか。
立原えりかの人魚姫は一番馴染みがあります。
完訳はともかく、抄訳は人魚姫といったらこの人、というイメージ。
本書に収録されている他の物語は
表題作の「美女と野獣」(ボーモン夫人:作、巖谷國士:訳)、
グリム童話から「白雪姫」「灰まみれ」「マレーン姫」「ラプンツェル」「いばら姫」(池田香代子:訳)。
私は「マレーン姫」のお話は初めて読みました。
愛し合っていた王子と別れさせられ塔に閉じ込められるもなんとか脱出し、
再び王子と出会って結ばれる話です。
自分は醜いから人前に出たくないという理由でマレーン姫に身代わりに花嫁の恰好をさせた、
王子の婚約者の姫(顔も心も醜い)の策のおかげで王子と再会できたマレーン姫。
解説にも書かれているように自ら塔を脱出したり、
襲われそうになると大声をあげたりする行動的なお姫様です。
「君はマレーン姫に瓜二つ」とか言ってる王子様も早く気づけよ!って思うけど(笑)、
そこはおとぎ話ですからね。
池田氏の解説では、醜い姫と美しいマレーン姫、
どちらも人の心にあって常に葛藤しているのでは、とありました。
私としては、王子を欺いた罰で首をちょん切られてしまう醜い姫にちょっと同情・・・。
「美女と野獣 七つの美しいお姫さま物語」
(講談社 2017年3月刊)
巖谷國士、池田香代子、立原えりか:訳 佐竹美保:絵